舞台でやってきたこととリンクした
――今は紙の上で演出している感覚なのでしょうか。
そうなんですよ。舞台ってすっごく大変で、台本を作って、役者さんにお芝居をしていただく裏には、セットに美術に照明に音響に…と、一作に関わる人も多く、何年もかかる世界なんですよ。でも、漫画だったら一人ですぐに描くことができます。いま漫画家を職業としている理由は、その点が気に入っているからかもしれません。
――漫画を描き始めたのはいつごろですか?
中学生ぐらいから趣味で描いていました。大学では舞台の勉強をしていたんですけど、漫画も描いて投稿もしていました。表現方法は舞台から漫画に変わったけれど、表現したいことは変わっていないと思います。
――自分の思い描いた理想の世界を、役者さんに演じてもらうか、キャラクタに演じてもらうかの違いでしょうか。
もともと母の影響でドラマや映画をよく見ていて、人が演じる姿が好きなんです。特に、生の人間を感じられる舞台に興味があって演出を学んだのですが、漫画に戻ってきたとき、キャラクタの表情は演技だなと初めて気が付きました。そのとき、自分が舞台でやってきたこととリンクして、漫画家としての道筋が見えた気がしました。漫画を描く上でも、表情を描くのが好きだし、「こういう表情でこのセリフを言わせたい!」というシーンから物語を考えることも多いんです。
――デビュー作にして完成度の高い秘密がわかった気がします。読者からはどのような反響がありますか?
掲載誌の読者は若い女性が多いのですが、ネットで第1話が公開されてからは、普段漫画を読まないという方にも感想をいただき、層の広さに驚いています。「漫画で殴られた」という感想は印象的でした。また、自分も介護をしていたから共感したという声も多いですね。
――先日発表された第2話では、むくの環境にも、むくと優都の関係性にも大きな変化が出てきました。今後はどのような展開になりそうですか?
あまり多くを語ってしまうと編集さんに怒られそうですが(笑)、最終的にはむくが自分の人生を生きていけるように、そして深い家族の物語を描けたらいいなと思っています。映像化もされたら嬉しいです!
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2023.08.23(水)
文=井口啓子