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落ち込んだときには吉本ばなな先生の小説を読む

――第1話だけでも印象的なセリフが多くあります。「現実も見た方がいい」と優都に言われたむくが心の中で返す「理想の世界があるからこそ現実を生きられる人間だっているんだよ」というセリフとか、そうそうそう! と共感してしまいました。

 私自身オタクなんですが、やっぱりしんどいときほど、好きなものに救われるんです。◯◯先生の新刊の発売日までは生きられるみたいな、楽しみがあるから現実もがんばれるっていうことが誰しもあると思います。しんどいときにすがるものって、手の届くささやかなものではないでしょうか。
私は嫌なことがあるとひたすら映画を見るタイプなんです。嫌なことを忘れられる時間って、生きていくためにはすごく大事だと思います。

――漫画を描く上で、読者が現実を忘れて恍惚となれるようなファンタジーは大切にされていますか?

 はい、大切にしています。今作でも、現実にあるヤングケアラーやジェンダーの問題を描きつつ、メインは四人の恋愛や関係性の話になるかと思うので、エンタメとして純粋に楽しんでいただければ嬉しいです。

――ちづ先生自身が、過去に救われたと感じた作品はありますか?

 たくさんありすぎて難しいですが、漫画だったら羽海野チカ先生がすごく好きです。それから、落ち込んだときにはいつも、吉本ばなな先生の小説を読むんです。どれとは決めてないけど、ほぼ全部手元にあるので、そのときの気分で決めています。友達に「吉本ばななさんの文体は、美しくて癒しだよ。文章からヒーリングを受けてるよ」と言われて、とても納得しました。

――作中にあった「泣きながらごはん食べられる人は大丈夫」というセリフは、吉本ばななさんの作品へのオマージュですよね。作中のセリフには、どのようなこだわりがあるのでしょうか。

 私はもともと舞台演出家を目指していて、劇団四季で働きながら、同時に演劇活動をしていました。そのための舞台の勉強をしている頃から、戯曲が大切だとずっと言われてきたんです。舞台とは、最初に言葉があって、それに演技をつけていくんだと教わりました。だから自分の中で言葉はすごく大切で、言葉が好きだし、セリフには今もこだわりがあります。

2023.08.23(水)
文=井口啓子