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「女の子だから頼りにならないのもしょうがないけどねぇ」

――雪に閉ざされた田舎町という舞台設定が、逃げ場のない閉塞感を際立たせつつ、恋愛や友情のロマンを掻き立てます。ちづ先生自身、福井出身で現在Uターンで福井を拠点に活動されているそうですが、本作にはご自身の経験が盛り込まれているのでしょうか?

 舞台となる雪国は、まさに私の生まれ育った福井の山の方の町ですね。冬場は本当に町から出られないぐらい雪が多いところなんです。私自身はヤングケアラーというわけではなかったんですが、祖父母を含む大家族の中で育って、大学進学で大阪に出て、東京でしばらく働いてた後、田舎の方が生きやすいなと思って帰ってきました。だから、田舎の閉塞感みたいなものもわかるけど、田舎の人の良さとか自然の美しさもすごくわかる。「ヤングケアラー」という題材以前に、この作品を通して、田舎の良さと悪さ、両方をちゃんと描きたいという気持ちが強くありました。

――むくは父親が死去しており、21歳にして家計を支え、祖父の介護や家事をしています。やっぱり、女性の方が家族のケアを背負いがちなところはありますよね。

 連載が始まる前に、友達に今度こういう漫画を描くんだと話してみると、実は私もそうだったとか、友達がそうだという方が想像以上にいました。でも「お手伝い」との違いがわかりにくいから、本人も自分がヤングケアラーだとは気付きにくいんです。

 やっぱり田舎に住んでいると「女の子だから」といった枕詞を言われることがあります。「女の子だから」「お姉ちゃんだから」というだけで、家事や介護を押し付けられてしまう。うちも兄と弟がいて女は私一人だったので、何かと家のことは手伝っていたけれど、兄弟は免除されているのはおかしいなと家を出て初めて気付いた面はありました。ですから、作中にも「女の子だから」というワードは意識的にちりばめています。

――田舎の問題に限らない、女性の生きづらさをリアルに感じさせるシーンが多いと思いました。おばあちゃんが無職になったむくに「まぁ女の子だから頼りにならないのもしょうがないけどねぇ」というシーン。あるいは、お母さんが介護を手伝うむくに「これからもお母さんを助けてね。頼りにしてるから!」というシーンでは、同性間の負の連鎖を描いています。

 男性だけでなく、女性同士でも、いや、それハラスメントやで! みたいなことってよくありますよね。でも、本人には悪気がないから、怒ったり注意するというところには持っていきにくい。かえって良いこととして諭される感じが、辛いと思います。本当に問題が根深く、ものすごく巨大で透明な壁を感じました。

2023.08.23(水)
文=井口啓子