「ヤングケアラー」が社会問題としてクローズアップされている今、注目を集めている漫画がある。小学館の雑誌「Cheese!」で連載中の『この雪原で君が笑っていられるように』だ。
今年5月の連載開始直後から好評を受け、第1話が丸ごとネット公開されると、漫画ファンにとどまらず、幅広い層の読者に大反響を巻き起こした。
家族を愛するがゆえに仕事や夢を奪われてゆくヒロイン・白鹿むく(21)の葛藤をリアルに描き出す一方で、雪に閉ざされた田舎町を舞台にした幼馴染み四人の尊い人間関係を繊細に紡ぎ出す。この日本に生きる女性なら、きっと「これは私の物語だ!」と共感せずにいられない。
切実な問題提起と甘やかなドラマが融合した衝撃作『この雪原で君が笑っていられるように』でデビューを果たしたちづはるか先生に、作品の根底にある「多様な人間関係と愛」というテーマ、舞台演出家を目指していた異色の経歴ゆえのこだわりについて話を聞いた。
ヤングケアラーとは?
家事や家族の世話、介護など、本来大人が担うべきケアを日常的に行っているこどものこと。責任や負担の重さにより、学業や友人関係などに影響が出ることが多く、近年特に社会問題となっている。
親友の延長みたいな恋人っていいなって
――現在、2話目が『Cheese!』に掲載されていますが、むくと、幼馴染みの天沢朔都・優都兄弟の関係性も甘酸っぱくてたまりません。幼少期から、ある種の特別な絆で結ばれた親友であり、大人になって再会したときも、お互いそうだとは気付いていない状態で、趣味の読書の話で盛り上がる。いわゆる男女の恋愛だけではない、深い理解で結ばれた関係性として描かれているのが魅力的ですね。
個人的に、親友の延長みたいな恋人っていいなと思っていて。恋愛もいいけれど、友情って関係として深いし尊いなって思うんです。恋愛って、瞬間的にわーっと盛り上がって、心だけでなく体の関係性にもなりますが、友情は体の関係がなくても楽しいし、恋愛よりもずっと長続きしますよね。だから、むくと優都の関係も単純な男女の恋愛関係にはしたくないなと思って描きました。
――すごくわかります。よりステージの高い関係性を突き詰めてゆくと、体の関係はもはや必要ないというか、邪魔ですらある(笑)。
はい(笑)。普遍の愛といいますか、根底から相手を好きという純粋な愛情は萌えますよね。こどもの頃に出会った当初、むくは優都を女の子だと思っていたのですが、それは性別を超えた愛を描きたかったからなんです。私の好みがバレますが(笑)。女の子だから好き、男の子だから好き、ではなくて、心で結ばれた二人を描きたい。
――むくと優都だけでなく、むくの妹のいのりと優都の兄の朔都を含めた4人それぞれが、互いを大切に思い合っています。
私は漫画を描くとき「このキャラクタを描きたい」とか「こういう関係性を描きたい」というところからスタートすることが多く、4人の関係性は特に描きたかった部分です。担当編集さんからは、メインキャラクタが4人は多い、慣れていないと難しいからむくと優都の2人に絞った方がいいとアドバイスされました。でも「いや、4人がいいんです」って。ただ、実際に描いてみたら本当に難しくて、苦闘してます(笑)。
2023.08.23(水)
文=井口啓子