書き出した時に頭の中にあったのは、最後の強烈なシーンだけでした。そのシーンを書きたくて、そこに至る物語を紡いだという感じです。男性が、誰も想像しないまさかという形で終焉を迎える、そこに若い女性の半生が大きくかかわってくる――具体的なことはここではお話しできないので(笑)、ぜひお読みいただきたいです」
表題作「日暮れのあと」では、20代の青年が64歳の現役風俗嬢への純粋な恋情を、70代の女性主人公相手に語る。青年のその率直な心情の吐露は、読み手の胸を熱くする。
「未婚のまま娘を産んで70代になった主人公は、やきもちを焼いています。ただそのやきもちは、悔しいとか、自分はどんどん年老いていくのにこんな恋愛話を聞かされて、というネガティブな感情ではありません。青年の話に、彼女自身、心動かされる。それを書いてみたかったんです。
この先は、老いというテーマで、なんとかわたしらしい作品が書けないかと考えています。老いそのものをテーマとして、自らの老いと向き合いながら書いている女性作家は意外と少ないんじゃないでしょうか。それはなぜなんだろうと考えると、自分も含めて、老いと正面切って向き合い、作品化していくことに抵抗感があるのではないか、と思う。やはり、自分の老いさらばえていく姿や内面をさらしながら、小説化していくことは、ある意味、恐ろしい作業でもあります。羞恥心や嫌悪感が少しでもあると、表現する上で自らブレーキをかけることになりかねない。嘘や気取りで塗りかためてしまうかもしれない。そうなったら、老いの本質からは遠ざかってしまう。
でも、老いに向かっている途上の不安感というものは年代関係なくみんな持っているものだと思います。それをまさに老いの道に入ったわたしのような人間が、どのように見つめて、どのように考え、物語化していくのか。老いそのものよりも、私はそうした不安感、それ自体に興味があります。うまくいくかどうか分からないけど、挑戦してみたいですね」
2023.08.02(水)