衝撃のテレビ放送の後、新劇場版から、庵野秀明監督が直接音響監督も務めるようになりました。これは私の勝手な印象ですが、庵野さんの目指すお芝居は“的が狭い”んです。毎回、“今日は当たるかなー”という思いで現場に向かっていました。
後から聞いた話ですが、私のセリフに関して初回のテイクを使うことが多かったそうです。リテイクの数は多いものの、それは決してダメだからやり直すのではなく、違うアプローチでピンとくる表現を求めていたんでしょう。とにかくいろんな可能性を試されるんですよね。
そこまでこだわる音響監督はなかなかいらっしゃいませんし、アニメ収録の現場としてはすごく時間がかかったので、当時業界ではウワサになりました。体力も集中力も消耗しましたが、それ以上に私には得るものがたくさんあったように思います。
庵野さんの現場で、ほかにはない演出を感じたことがありました。セリフの切り貼りです。それまでは、たとえば3行のセリフがOKならば、まるまる使っていただくのが当たり前のように思っていました。でも、庵野監督の場合は何度もテイクを重ね、その中から欲しい部分を編集して組み替えることもあるようでした。データ録音になったからできることだけど、とても手間のかかる作業。実写映画ってそうなのかしら?
新劇場版の初期の頃、完成した作品を見て「あれ?」と思ったんです。“私、こんなふうにしゃべった記憶がないんだけどな……?”って。
そしてセリフを編集していると気づいてから、“そうか、これが庵野さん流なんだ”と理解しました。庵野さんは「テイクが違っても、芝居のいいところを組み合わせて、しっくりくるかどうかで選んでます」とのことでした。となると、私は彼が求めるテイクを提供できるよう、一点集中で、“よ~し、何本でも希望するだけのセリフを投げましょう!”と覚悟を決めて臨みました。そして、強弱や緩急のこだわった完成品を見て衝撃を受けるのです。
2023.06.30(金)
文=三石琴乃