新作は久々の超能力もの
永嶋 今回の『異能機関』も超能力ものですが、こういう作品っていつ以来でしょうね。魔術やモンスターと違って超能力はホラーでなくSFのガジェットだと考えると、そもそもSFっぽい作品も最近は意外となかったようにも思います。
白石 『デッド・ゾーン』(邦訳1987年)、『ファイアスターター』(邦訳1982年)は超能力もの。『ドクター・スリープ』(邦訳2015年)が『シャイニング』の続編だから、「かがやき」を超能力とすればそうとも言える?
永嶋 僕の大好きな『11/22/63』(邦訳2013年)もSFか。でも『異能機関』はもっと初期、『ファイアスターター』あたりまで回帰している印象がありませんか。
白石 大きな秘密機関が超能力を利用しようとする、という設定が『ファイアスターター』と似てますね。
永嶋 話の構造も『ファイアスターター』がいちばん近いかもしれません。
白石 でも、「秘密裏に全国から超能力少年少女を拉致する謎の機関〈研究所〉とは……!?」みたいな紹介文で読みはじめると、いきなりアメリカの田舎のスモールタウンに来た流れ者の男、ティムの話がはじまるのでとまどう人もいるかも(笑)。だけど、期待をちょっとはずして、でもシームレスに読者を誘いこむ開幕にするのがキングの老練なところ。
永嶋 以前に訳者の芝山幹郎さんだったか、キングのファンでも『不眠症』(邦訳2001年)の前半を面白いと思う人と退屈と思う人にわかれるとおっしゃっていた記憶があります。あの本の前半って何も起きないでしょう(笑)。でもあそこがいいんですよ。僕はキングの大長編の「何も起きないあたり」がすごく好きなんです。
白石 『不眠症』とか『ニードフル・シングス』(邦訳1994年)の、スモールタウンでささいな悪意が積み重なっていく話が延々と続くところ。キングはああいうのを書かせると上手いよね。
永嶋 何も起きないのに面白い。
2023.06.28(水)