白石 『異能機関』の冒頭からしばらくはサウスカロライナ州のスモールタウンが舞台。悪意の人よりも南部の善意の人が多いんだけれど、しょっぱなで書かれたそのスモールタウンらしさの美点が、下巻の後半でぐぐっと重みを増す。今回はそこがすごく上手いな、いいなあと思いましたね。

 
 

永嶋 非常にエンタメしていますよね。そこ行くと『ファイアスターター』はやっぱり、70年代を引きずっているというか、暗いじゃないですか。

白石 60年代カウンターカルチャーというか、当時の政府不信というパラノイア的といえなくもない風潮の影響があるのかな。

永嶋 『異能機関』でもアニーという大変いいキャラがいて、彼女にはそういうパラノイア感があるんですが、どちらかというと現代的な陰謀論者と見るべきかもしれない。『ファイアスターター』はラストも70年代映画みたいでスカっとしないんですよね。『異能機関』もすべてスッキリ解決ハッピーエンドとは言えないにしても、基本的には明朗ですよね。そこはだいぶ違うなと思ったんです。白石さんは以前、最近のキングの文体がエンタメっぽくなってきたとおっしゃっていましたね。

白石 非常にすっきりしてきましたね。でも、そのなかに時折、これどういう意味? という言い回しが急に出てくる。

永嶋 文法的にわからない、というのではなく。

白石 珍しい用法の言葉が稀に出てくるんです。昔からのアメリカ人の言い回しなのかもしれないけれど、ぼくがあまり見たことのないような。それでググってみると、英語圏の読者が読書フォーラムのようなサイトで「これはどういう意味なのか?」と質問してるの。もちろん集合知で解決する疑問も多いけれど、なかには「キングは言葉を作るクセがあるからさ」なんて返事がついてる場合もある(笑)。

永嶋 ネイティブでもわからない(笑)。

白石 『異能機関』にあったそういう珍しい表現が、『Billy Summers』にもあったりする。あっ、同じ言い回しだ、と。そうそう、こちらの長編も作業にかかっています。

2023.06.28(水)