韓国でも少子化対策は的外れなものばかり

――その背景には、やはり儒教の男尊女卑的な価値観が根強くある。韓国では2016年に発生した江南女性殺人事件(※2)を契機に女性に対する暴力撲滅運動が広がり、2017年には新法制定の動きも。状況が一気に変わったという。(※2 容疑者の供述によると、動機は女性への憎悪だった。事件をきっかけに、これまで韓国で生きる女性が日々直面しているさまざまな暴力の根絶を目指す動きが広がった)

 女性を差別したり、子どもを産まないの? と質問したりすること自体、差別案件だと通報できるようになって、「女性は結婚して子どもを産むべきだ」という重圧感が薄れてきた。だからこそ、結婚もしないし子どもも産まないという女性が増えてきたんですが、同時にそれに反発する男性も増えて、男女の分断が進んでいる。だから悪循環なんですが、状況はより複雑化しているんです。

――勇気ある女性たちの働きかけによって、女性が結婚や出産のプレッシャーから解放されたこと自体は、喜ばしいことだ。だが、結婚や子どもを持つことに希望が抱けないままの状況など、誰も望んではいないはず。どうすれば子どもを持つことをポジティブに考えられるようになるのだろう?

 一つ目は、男性が育児に参加する状況をつくること。そのためには教育も重要ですが、まずは基本的な労働時間を減らすか、男女の賃金を平等にする政策を打ち出すべきです。もう一つは、出産後の女性の雇用を改善すること。韓国では、出産してキャリアを諦めた女性を低賃金で買い叩くような状況があるので、まずそれを改善しないと女性は出産に踏み切れません。もちろん、出産前と変わらない状況で働けたらベストです。

 政府もいろんな少子化対策を打ち出してはいますが、「子どもを2人以上産んだら国のマンションに優先的に入れる」とか的外れなものばかり。女性にとってなにが問題なのか、どうすれば産みたいと思えるのか。問題を可視化させるためには、私は声を上げていくことも大事だと思います。自分の意見を発言するには勇気が必要ですが、状況を変える大きな声になると思うんです。

チョン・ソヨンさん

韓国SFの話題作『となりのヨンヒさん』で知られる作家・翻訳家であり、人権弁護士としても活躍。韓国女性の怒りと葛藤や社会問題に鋭く切り込んだ『#発言する女性として生きるということ』は、今年日本でも発売され、SNSを中心に大きな反響を巻き起こした。

チョン・ソヨンさんの著書

『#発言する女性として生きるということ』
チョン・ソヨン 李聖和 訳

定価 2,200円(税込)
クオン
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2023.06.17(土)
Text=Keiko Iguchi
Photographs=Asami Enomoto

CREA 2023年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

母って何?

CREA 2023年夏号

母って何?

定価950円

CREAで10年ぶりの「母」特集。女性たちにとって「母になる」ことがもはや当たり前の選択肢ではなくなった日本の社会状況。政府が少子化対策を謳う一方で、なぜ出生数は減る一方なのか? この10年間で女性たちの意識、社会はどう変わったのか? 「母」となった女性、「母」とならなかった女性がいま考えることは? 徹底的に「母」について考えた一冊です。イモトアヤコさん、コムアイさん、pecoさんなど話題の方たちも登場。