この記事の連載

 子どもの教育のために日本を離れ、以降10年間、マレーシアで暮らす野本響子さん。著書の『東南アジア式「まあいっか」で楽に生きる本』では、さまざまなデータから日本の「生きづらさ」を読み解き、それとは対照的に幸福度高く生きる東南アジアの人々の考え方を紹介しています。なぜ日本は子どもがいてもいなくても「生きるのがしんどい」のか。なぜ一見不便で給与水準も低いマレーシアには楽しそうな人が多いのか。3児の母でもある担当編集・伊藤淳子(文藝春秋ノンフィクション出版部)と野本さんが、マレーシアに移住してわかった人生の楽しみ方を語りました【中篇】を読む)(【後篇】を読む

※この対談は2023年2月10日に行われた『東南アジア式「まあいっか」で楽に生きる本』刊行記念トークライブ「マレーシアのリラックスした社会で学んだ『人生の楽しみ方』」の内容を再構成したものです。


子どもを置いて夫婦で旅行して「何が悪いの?」

野本 文藝春秋さんとは、毎年出されているオピニオン誌『2022年の論点100』への執筆依頼がきっかけでしたよね。正直、執筆依頼をいただいたときは「何で私に?」と思ったのですが、これはどういった経緯で執筆依頼をいただいたのでしょうか?

伊藤 2021年の夏ごろに、野本さんに執筆の依頼をさせていただいたんですよね。2022年版の『論点』では、近年の日本人の海外教育熱が高まっていることを受けて、海外教育についてのジャンルを設けました。そこで、マレーシアに母子で教育移住された野本さんに書いていただけたらと企画を出したところ、編集長が「面白そうだから頼んでみて」と企画が通ったというわけです。私は、野本さんが以前はcakes、現在はnoteで連載している「東南アジアここだけの話」の大ファンでずっと読んでいたんです。

野本 子育てが大変だったんですか?

伊藤 子どもが3人いるので、すごく大変で。野本さんの「マレーシアでは子育てがゆったりできるよ」という文章を読んで、いつも「いいなあ、幸せそうだな、楽しそうだな」と思っていました。

野本 そういうふうに感じて読む読者がいたことに、書いている方は全く気が付かないんですよね。

伊藤 『2022年の論点100』をきっかけに、「本を書いてみませんか?」と声をかけさせていただきました。そこから始まったのが『東南アジア式「まあいっか」で楽に生きる本』なんです。

野本 そうなんですよね。やり取りの中で、伊藤さんから子育ての悩みを聞いて、「楽に生きる」ということをテーマにした本を書いてみようかなと思いました。

伊藤 野本さんの影響を受けて、上の子ふたりは留学させました。一度は日本の外に出してみるということを、自分の子育てで実践してみたんです。子育てだけでなく、仕事や人間関係で悩んでいる方や、海外に興味があって移住してみたいという方にもとても参考になる内容です。

野本 実は私、子どもを持つ前は「こんなに大変なら子どもは産まなくていいや」って思っていたんです。それが、マレーシアに初めて行ったとき、家では全然料理しない人がいたり、子どもを3人置いて夫婦で旅行したり、「それって許されるの?」って。でも、マレーシアの人からすると「何が悪いの?」みたいな感じなんです(笑)。「これでいいんだ、ああ、世界は広いな」と思ったら、すごく気持ちが楽になって。こういう社会なら、自分が子どもを育てて困ったらマレーシアに行けばいいと思ったんです。

伊藤 困ったらマレーシアへ! 行きたいですけれどね。なかなかそんな簡単には行けないです(笑)。

2023.05.23(火)
文=文藝春秋