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【ゆる募】海外受験経験のある方

──登場するキャラクターに心底嫌な人が出てこないのも、「誰も傷つけない」配慮ですか?

外山 うーん……。半分は狙いで、半分は成り行きです。主人公の平田さやかが勝手に劣等感を抱く高層階の住人・高杉綾子は、さやかが自分を卑下するための舞台装置として描いていたので、思いっきり高慢で嫌な女にするつもりだったんです。でも、書き進めるうちに、玉の輿に乗って誰よりも幸せになったはずなのに、そこがゴールではないと気がついた時から始まる苦悩みたいな「綾子の事情」に感情移入してしまって、当初考えていたのとはまったく違うキャラクターになってしまいました。

 さやかから見ると意地悪でも、実は綾子に悪気はないんですよ。「3千円のパフェを食べに行こう」と気楽に誘うのも、3万円のカーディガンを「色が素敵で似合うから買えばいい」とかんたんに勧めるのも、相手を苦しめようとか、嫌な気持ちにさせようと思ってしている行動ではない。さやかが値段に躊躇しているということに気がつかないだけなんです。それを受け手のさやかが勝手に劣等感を覚えてしまう。そんな、さやかのコンプレックスみたいな部分も、綾子を書き進めることで明らかに肉付けできていきました。

──「感情移入」といえば、どのキャラクターも自分を含め知り合いの誰かにすごく似ているところがあって、親近感を覚えます。どなたか実在のモデルがいるのですか?

外山 特定のモデルはいませんが、Twitterの相互フォロワーさんとランチに行ったり、実際にタワマンに住んでいる知人に会いに行ったりして声をたくさん集めたので、どこか自分や自分の知り合いに似ていると感じてもらえるのかもしれないです。リアリティがあると言っていただけることが多く、嬉しいです。

 でもリアリティという部分では、高層階に住む高杉夫妻は、僕の周りにはいない人たちなので、描くのに苦労しました。Twitterのフォロワーさんを通じて医者や不動産関係のアッパークラスの方たちとつながり、取材させてもらったんですけど、海外受験の話も、Twitterで「【ゆる募】海外受験経験のある方」などと募集をかけると、DMでばーっと反応があって、助かりました。

──登場する子どもたちの行く末も、まるで我が子か親戚の子のように気になります。書籍のカバー裏や巻末で「子どもたちのその後」を描いたのは、作者としての親心からでしょうか。

外山 エンターテイナーの矜持で、お金を払ってくださる読者の皆様に少しでもサービスしたいという思いからです。最初バッドエンドも考えていた巻末の平田充のエピソードは、エンターテインメントとして最終的にあの形に着地させました。電子書籍版では別人物のバージョンも書き下ろしましたので、こちらもお読みいただけたら嬉しいです。

息が詰まるようなこの場所で

定価 1,650円(税込)
KADOKAWA
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2023.04.22(土)
文=相澤洋美