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タワマン文学は"文学"ではない?

──「中の上への嫉妬」がタワマン文学を盛り上げているのでしょうか。

外山 タワマン文学の原動力は、リアルな焦燥感だと思います。たとえばこれが港区の低層マンションや、渋谷区松濤の100坪の戸建ての話だったら絶対にバズりません。なぜなら、書くほうにも読むほうにも、まったくリアリティがないからです。「ちょっと頑張れば手が届くかもしれない」湾岸のタワマンだからこそ、バズるんだと思います。

 これも極論ですけど、大谷翔平選手が年俸85億円もらったと聞いても誰も嫉妬しませんよね。でも、年収1,500万円くらいの一流企業が大量解雇というニュースを見ると、ちょっとすっきりするじゃないですか。そういう感情って多かれ少なかれ誰でも持っていると思うので、そこが、タワマン文学が盛り上がる理由じゃないかと僕は思っています。

──「タワマン文学は"文学"ではない」という批判もよく目にします。こうした意見に対してはどのように思われますか?

外山 まったくその通りです。僕だって「いわゆる“文学”じゃない」と思っていますよ(笑)。Twitterは140文字しか書けないので、人のコンプレックスを刺激したり、人間の嫌な面をわざと出したりして、ひとつの投稿でざわっとさせる効果を狙っています。こういう手法に嫌悪感を持つ人がいるのは当然ですし、「文学じゃない」とおっしゃる方がいるのも当然です。ただ、「タワマン文学は文学じゃない」と言われたことで、逆に「タワマン文学」が認識されるようになった部分は大きいと思います。

──「文学ではない」小説に対し、KADOKAWAさんから書籍化のオファーがあった時は、どのように感じましたか?

外山 まず「売れない」と思いました。無料なら僕が暇つぶしで書いているような駄文でも読んでもらえるでしょうが、これをお金を払ってまで読みたいと思う人なんかいないだろ、というのが率直な感想でした。なので、「バズった投稿をいくつか抜き出して書籍化しても売れないから、もし書くのであれば、ゼロから新しい作品を書かせてほしい」と相談したところ、「どうぞお好きに書いてください」と言ってくださったので、それなら書きますとお答えしました。

──「タワマン文学」といえば「麻布競馬場」さんも有名です。ライバル意識はありましたか?

外山 ライバルというか、麻布くんと僕、飲み友達なんですよ(笑)。KADOKAWAさんから書籍化のお話をいただいた時も、麻布くんが集英社さんから本を出すという話が出たタイミングで。麻布くんがツイートをそのまま短編集にして出すと言っていたので、「それ、売れないでしょ」と偉そうに言っていたら、めちゃくちゃヒットしたので「勉強不足ですみません」って感じでした。まあでも結果的に、麻布くんと僕との差別化ができて、相乗効果でお互いの本が売れているので、よかったかなと(笑)。

──書籍化にあたり、どのようなことを意識されましたか?

外山 僕がこだわったのは、エンターテインメントです。お金を払って買っていただくのであれば、お金を払っただけの価値があるものにしなくてはいけないという思いはありました。そのときまだ値段は決まっていなかったんですけど、仮に1,500円とか1,600円だとすると、サラリーマンなら「焼き肉定食の肉大盛り」くらいの高級ランチが食べられる値段なわけですよ。だから最低でも、ちょっと高めのランチを食べたくらいの読後感が味わえる作品にしなくてはいけないという気負いはありました。

 あと気をつけたのは表現ですね。Twitterって、140文字のなかでいかにざわつかせるかが重要なので、露悪的な表現を好んで使うんですけど、小説はエンターテインメントなので、誰も傷つかないような表現を意識しました。

2023.04.22(土)
文=相澤洋美