Ⓒ「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
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 愛之助 最近、私は歌舞伎でダークサイドの役柄をよくやらせていただきます(笑)。

 ――そう言われれば、そうですね。

 愛之助 『東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん)』ではお岩さまを殺めて、『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』では舅、『皿屋敷(さらやしき)』ではお菊、そして南座・顔見世興行の『女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)』までダークサイドが続いているんです。ただ、歌舞伎の場合は様式美をひじょうに大切にしていますから、『油地獄』であるように殺しのシーンも美しく見せる。どこを切り取っても意味のある形をお見せするというのが歌舞伎俳優の仕事です。ですから、歌舞伎では「絵」として見ていただくことを意識しますが、梅安の世界には、やはり理があると思います。それに、今回の2作品は映像的にひじょうに美しく仕上がっているので、注目していただきたいですね。

2部作公開ならではの世界観に

 ――今回、1作目と2作目が時を置かずして公開されることもありますが、物語として連続していながらも、それぞれ単独で楽しめる仕上がりになっています。2作品の撮影だと、1作目と2作目の演じ分けを意識されましたか。

 豊川 撮影自体は、1作目と2作目をないまぜで撮影していたので、作品によって演じ分けていた意識はありませんでした。ただし、完成した作品を見ると、演出的には1作目は河毛監督の世界観が凝縮されていて、完成度が高いと思いました。むしろ、2作目の方が冒険していると思います。池波文学という視点から見ると、冒険を試みている2作目の方が池波先生の世界観がうまく表現されているという気もしました。

 ――それは興味深いですね。

 豊川 1作目は内面を深く掘り下げていく感じ。2作目はエネルギーが外へ、外へと向かっていき、池波作品の活気が表現されている気がします。

 愛之助 たしかに2作目は「いよいよ復讐劇が始まった」というエネルギーが放出されていますよね。豊川さんがおっしゃるように、そういうところに池波先生の作品らしさを強く感じます。

2023.04.10(月)
取材・構成=生島 淳