――彦次郎の“必殺兵器”ですからね。

 愛之助 「本当に届くのか」と思ってしまうんですが、これが、届くんです。今回、役づくりにあたって武器の研究もしまして、まず、吹き矢のことを勉強しました。吹き矢にも種類があり、遠距離用のものは本当にびっくりするくらいの威力で的に突き刺さります。

 ――そんなに威力があるんですか。

 愛之助 数回練習しただけでそうでしたから、本当に怖いと思いました。「これは十分に武器になるな」と思いましたが、接近戦では不利だとも気づきました(笑)。

 ――毒って、すぐに効くものなんですか。

 愛之助 まさにその“時間”は重要でして、これは芝居にも関わってくることです。河毛監督に「毒が回り絶命するまでどのくらいの時間が必要でしょうか?」と質問したら、「7秒。7秒後に絶命する」というお答えだったので、“7秒後”を意識して芝居をしました。いろいろ考えながら彦次郎を作っていきましたね。

「善いことをしながら悪いことをする」

 ――そうした細部を詰めたうえで、梅安と彦次郎という「バディ」の関係性も熟していったわけですね。

 豊川 今回の2作品は「会話劇」の要素が強いです。梅安と彦次郎が話し合うことで、言葉の向こうからキャラクターの心情をのぞかせる仕掛けになっています。その意味で、僕はこれまでに製作された梅安シリーズの中では、最も原作に近いものになっていると自負しています。実際、撮影が進むにつれて愛之助さんとの会話がどんどん楽しくなっていった感覚がありました。

 愛之助 本来、映画撮影の現場では「みんなで飲みに行こう」などといったコミュニケーションがあって、そこからいろいろなものが生み出されていくと思うんですが、今回はコロナの影響でそれが出来なかった。それでも、梅安と彦次郎が酒を飲むシーンを通じて――実際はお水でしたが――ふたりでお芝居で飲みながら、楽しく過ごすことができました。

池波哲学を今を生きる観客に

2023.04.10(月)
取材・構成=生島 淳