昭和歌謡がドラマチックで非日常な「主人公」になれる気持ちよさがあるとすれば、心象風景を歌う曲が多い平成J-POPは、歌うことで素直になり、自問自答をアウトプットできるイメージだ。
ドラマで加藤(宮下雄也)が歌っていたレミオロメンの「粉雪」も、「もしもあの時こうだったら」という後悔を吐き出すのに最高である。
平成シングル、アルバム第1位は?
ドラマ本編とコンピレーションアルバムには、2000年代に一世を風靡した宇多田ヒカルの曲は出てこない。……と思っていたら、huluのアナザーストーリーで登場! 同級生 “ぺーたん”(うらじぬの)の回「First Love」でフィーチャーされていた(歌がとてもうまい!)。平成アルバム売り上げ第1位のタイトルを、さりげなくアナザーストーリーで取り上げるとはニクい演出だ。Mr.Childrenも本編では流れないが、まりりん(水川あさみ)回のタイトル「Cross Road」は、ついついミスチル「CROSS ROAD」を思い出す。
ちなみに、平成シングル売り上げ第1位はSMAP「世界に一つだけの花」で、こちらはアナザーストーリーにも登場しないが、ここまでくれば「きっと同級生の誰かがカラオケで歌っている」と想像できる。なんとも粋な構成。バカリズム、どこまでも恐ろしい。
カラオケでキャラや展開が見えるこのドラマを観ていると、平成の「メガヒット以外」の大勢が歌える“スマッシュヒット”の多様さに改めて驚く。アイドルに歌姫系、バンドブーム、HIPHOPにレゲエ、ドラマ主題歌などなど、ジャンルはバラバラ。それでも、タイトルを見ればほぼ鼻歌やカラオケでサビが出てくるし、そのシーンに共感できる。これは新たな文化の波に押されつつも、テレビ、CDという媒体がまだ元気だった平成ヒットならでは。
老若男女が認知する「ヒット曲」と、たとえトップ10に入らずとも、タイトルを見れば鼻歌やカラオケでサビが出てくる「キャッチーな曲」、そして「個人で深めていく曲」の黄金トライアングル時代だったのかも、と思うのだ。
2023.03.29(水)
文=田中 稲