左脳の4分の1が壊死し「ほとんど赤ちゃんのような状態」に

 どんどん多忙になる清水さんは、当時から「遺伝もあるのかな。実は血圧が高くて、200を超えそうなの」などと言っていたのを思い出します。血圧の数値などまったく気にしないでよい年齢だった20代の私ですが、「いくらなんでもそれはまずいのでは?」と先輩OLのお姉さまたちが寄ってたかって心配していたのも思い出します。

 優しげな可愛らしい声でコロコロと笑い、笑うと目がなくなって、どこかふわふわしていて面白くて。OLたちの誰もが、みんな清水さんの大ファンでした。

 『週刊文春』での連載が終わってもOL委員会は存続し、しばらくは他誌で活動をしていましたが、時は流れていつしか消滅……実質は解散の形となってしまいます。

 清水さんがくも膜下出血と脳梗塞を患ったことは、風の便りで聞いていました。

 「どうも後遺症が残ってしまい、今は話すことも難しいらしい」とのことで、そんな状態ではお会いすることも連絡を取ることも難しいな、と思いつつ、あっという間に年月が経ってしまいました。

 その清水さんが、このたび約17年ぶりに上梓なさったのが、この『失くした「言葉」を取り戻すまで』です。

 6年前、亡くなった大場かなこさんについて、パソコンのメールで連絡を取り合いましたが、清水さんから返って来たメールはほんの数行。それもひらがなばかりの「小学生が書いたのかな」とさえ思える文章で、そこから考えても1冊の本を書き通すなんて、本当に驚異的です。

 くも膜下出血と脳梗塞を発症し、左脳の4分の1が壊死した清水さん曰く、「左脳を大きく損傷した私は、かなりのことがわからなくなっていました。自分が自分であることはわかる。でも自分の名前も、数字も、時計も、言葉も、常識もわからない。少し前まではふたりの子どもを育てながら、大量の原稿を書いていた私が、ほとんど赤ちゃんのような状態になっていました」(『失くした「言葉」を取り戻すまで』より)

言葉を取り戻したポジティブな闘病記

 誰よりも楽しい発想、誰よりも感性の鋭い文章と会話。そのすべてを失ってしまった清水さんがキーボードを打って一文字一文字綴り、言葉を取り戻したポジティブな闘病記です。

 支えたご家族の証言のほか、担当医や言語聴覚士、理学療法士にも自ら話を聞いてまとめたとのこと。同病を患う人には大きな指針とも、励みともなるに違いありません。

 何よりもフリーのライターとして四半世紀が過ぎ、「最近、書くのも飽きちゃったな~。更年期だし」などと思っている私が一番に元気をもらい、やる気スイッチを押されました。

 笑ってはいけないような闘病記なのに、やはり“清水ちなみ節”は健在で、そこかしこでクスッと笑わされてしまいます。

 清水さんのふわふわした優しげな笑い声が本の中から聞こえてきそうでした。

 私たちOL委員会の会員8,000人は、それまでももちろん、みんながそれぞれの場所でそれぞれの人生を歩んで来て、きっと今もこれからもそうなんですよね。

 そうそう、ちなみさん、還暦おめでとうございます。50歳過ぎたら、みんな同い年のようなもので。「今年で何歳になるんだっけ?」とすぐには思い出せなかったり、自分の誕生日もうっかり忘れてしまったり。今や性別も、どうでもよくなっちゃうくらい。

 8,000人のOL会員たちみんなが、それぞれに素敵な、ちょっとおとぼけの面白いおばあちゃんになれたら幸せです。

どす恋花子

本名、佐藤祥子。1967年生まれ。週刊誌記者を経て、1993年より相撲ライター。
Sports Graphic『Number』連載コラムSCORE CARDにて大相撲担当。『文藝春秋』にて「大相撲新風録」連載中。

『失くした「言葉」を取り戻すまで 脳梗塞で左脳の1/4が壊れた私』

手術から目覚めたら「お母さん」と「わかんない」しか言えなくなっていた! テープに残されていた手術前後の家族との会話や自ら取材した関係者の証言を織り込んで綴った、愛と笑いに溢れた120%ポジティブ闘病記。

定価 1,650円(税込)
文藝春秋
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2023.03.03(金)
文=どす恋花子