「札」の章では『青い鳥』の話が出てくるが、まさしく『水』という七編の小説集は、本の森に迷い込んで幸せを探す兄妹のようだ。同じテキストでも別々の版元の本が「2つ揃うと、何かおこるんですね」と、これは担当編集者の感動の言葉。「本自体が宝の山」とそれに応える小説家。

 本書を誰にでもお勧めする……などとおべっかは使いたくない。本物の本好きだけがここにおいで、と手招きしている気が私にはした。読者を選ぶ、そういう本がこの世にあってもいいではないか。

きたむらかおる/1949年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。89年『空飛ぶ馬』でデビュー。『夜の蝉』で日本推理作家協会賞、『ニッポン硬貨の謎』で本格ミステリ大賞、『鷺と雪』で直木賞。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。他の著書に『飲めば都』『ヴェネツィア便り』など。
 

おかざきたけし/1957年、大阪府生まれ。書評家、ライター。著書に『ここが私の東京』など。最新刊は『憧れの住む東京へ』。

2023.02.28(火)
文=岡崎武志