「前半は、警察の捜査を克明に描いて、どこに突破口があるのか、と。ある地点から、別の展開が起き、想像していない風景が浮かびあがってくる。事件の真相が、まるで風景のように見えてくる小説になったらいいな、という構想がありました」

――まさにそれが成功していると思います。一見ありふれた殺人事件が起き、それに対して、警察が、ち密に、そして徹底的に捜査をする場面から、火村とアリスの二人が旅に出た瞬間、「新しい物語」が始まる予感を想起させる美しい光景が広がります。有栖川さんは、瀬戸内の風景に思い入れはあるのでしょうか?

「私の両親は、香川県高松市出身です。夏になると、高松の祖父、祖母のもとを訪れていました。その思い出もあって、瀬戸内海の島々が大好きなんです。かねてから、『火村とアリスが、瀬戸内の島を動き回る場面を書きたい』という念願があり、それがこういった形で繋がるというのは、自分としても意外でした」

――瀬戸内への旅と、時間への旅、二つの旅が物語の重要な要素となってきますね。結果、すべてのランキングでベスト10入りしたことからも分かりますように、火村シリーズの中でも、屈指の長編になっていると思います。

「感じ方は、読んでいただく方それぞれだと思いつつも、『火村シリーズを読んできたけれど、これが好きだ』と言ってくださる方がいたら、嬉しく思います。作者は、『どれがイチオシ』というのはないんですけれどね」

プロフィール

有栖川有栖 (ありすがわ・ありす)
1959年、大阪府生まれ。同志社大学法学部卒業。89年『月光ゲーム』でデビュー。2003年『マレー鉄道の謎』で第56回日本推理作家協会賞、08年『女王国の城』で第8回本格ミステリ大賞小説部門、18年「火村英生シリーズ」で第3回吉川英治文庫賞、22年第26回日本ミステリ―文学大賞を受賞した。本格ミステリ作家クラブ初代会長。臨床犯罪学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖(アリス)コンビが活躍する「火村英生シリーズ」は根強い人気を誇り、火村を斎藤工が、アリスを窪田正孝が演じたドラマ版も話題に。『捜査線上の夕映え』は「火村シリーズ」最新長編として待望された一作。

 
 

2022.12.30(金)