「鉄道だけじゃなく、“鉄道のある風景”が好きなんです。だから車両の走っている景色を、ありのままに描きたいと思いました。田舎の風景にアソビがあるのと比べて、都会の風景って、ズレるとスキマが出てしまうんですよ。なのでデフォルメを交えながらも、極力正確に再現するようにしています」

 ところでジオラマといえば、郷愁を誘う“昔ながらの景色”が人気を集めている。木造家屋の密集した住宅地、未舗装の細い路地、路面電車、看板建築、駄菓子屋、ランニングシャツを着て遊ぶ子ども……。団塊世代が目にした昭和の光景である。味わい深い作品がたくさんあるが、思い出は美化されるのが常だから、多くの場合、大胆なデフォルメを含んでいる。

 インターネットで入手した大量のデータに基づき、現代の都市をありのままに描くMAJIRI氏のアプローチは真逆だ。しかし似通う部分もある。

「自分は生まれたのも育ったのも平成なので、懐かしい景色というのは、すべて平成のものなんです。だから平成の町並みを忠実に再現することで、その“懐かしさ”を保存していけたらと思っています」

 いつの時代も都会の人は、同じ景色がずっと続くと思いがちだが、そんなことは全然ない。代々木会館や中銀カプセルタワービルのようなランドマークが取り壊されるのはもちろんのこと、看板がひとつ掛け変わっただけでも、街の印象は大きく変わる。だからこそ、誰も動かない模型の街が、時代を物語る貴重な資料になるのである。

 SNSで“リアルすぎる”と称賛される作品の数々。10年後や20年後には“懐かしすぎる”ものとして、再度話題に上るのではないだろうか。

写真=山元茂樹/文藝春秋

2022.12.05(月)
文=ジャンヤー宇都