レーザーカッターと並んで活躍しているのが3Dプリンタで、こちらは「光造形式」という低コストの機材。エアコンの室外機や道路のガードレールといった部品を高い精度で作れるのは、この3Dプリンタのおかげである。
紙への印刷を多用するのもMAJIRI流だ。看板の文字が現実世界同様のクオリティで描かれていることが、模型としてのリアリティを高めている。
「看板などはインクジェットプリンタで印刷し、建物に貼り付けています。家電量販店で買えるような、普通のプリンタですよ。印刷物などは、実物を縮小コピーして使うこともあります」
設計には「Fusion 360」という3D CADソフトを使っており、個人やスタートアップ企業なら無料ライセンスで利用できる。肝心のパソコンも、3D CADのソフトを動かすだけのスペックはあるとはいえ、「ゲーミングPCより性能が低い」(MAJIRI氏)という、いわば普通のWindowsマシンである。
さすがにレーザーカッターは馴染みが薄いものの、3Dプリンタは数万円で買えるし、あとはインクジェットプリンタ、Windowsパソコンと無料ソフト……。こうして種明かしをしていくと、「誰でも始められる」のかと思ってしまうが……。
「大型のジオラマでも、素材だけで見れば、原価は数万円程度です。でもそのかわり、何十時間、何百時間という途方もない時間と情熱が必要になります」
依頼を受けて模型を製作することもあるが、あくまでも作りたいものを作るのが優先だというMAJIRI氏。この取材日にも、映画『天気の子』の舞台となった渋谷区のビル「代々木会館」のジオラマを工作している最中だった。1/80スケールで完成した代々木会館の様子は、彼のSNSで確認できる。
「平成ノスタルジー」の時代
1/148~1/160のスケールで製作されることが多いため、カテゴライズをするならば、Cityscape Studio作品の大半は“鉄道模型”ということになる。しかし、「車両を主役にして美しく見せる」という鉄道模型のセオリーには、必ずしも当てはまらない。
2022.12.05(月)
文=ジャンヤー宇都