島国日本を形成する4つの大島。その中でも、島内の各地域が際立った魅力を放ち、大いなる熱量を有する島が九州である。九州を“日本のイタリア”と称する人がいるがそれも納得の表現だ。
その九州で、新幹線や特急列車はもちろんのこと、地域の魅力に触れ、堪能するための究極の列車旅クルーズトレイン「ななつ星in九州」を始め、実に様々なD&S(デザイン&ストーリー)列車を編み出し、列車による「クルージング」という愉しさと夢を提供しながら、長年に亘り地域を盛り上げてきたのがJR九州である。
そのJR九州が、9月23日に迎える西九州新幹線の開業に際し、「西九州観光まちづくりAWARD」を創設し、去る9月9日、同AWARDの表彰式が東京ミッドタウンで開催された。
このAWARDは基本理念として「西九州に根付き、魅力ある“まち”へと成長させる人物と団体を称え、それが地域の誇りとなりながら、旅人へも感動を与えてゆくこと」を掲げており、また、佐賀・長崎で、地域ならではの伝統と伝承を守りながら、新しい「もの・こと・風景」を生み出している人々にスポットライトを当て、その土地ならではの魅力を発信することを目的としている。
この日、かような趣旨のもと選ばれた45組の候補者のなかから、記念すべき第一回目の受賞者が発表され、2つの大賞、3つの特別賞が授与された。九州の魅力を既に知る九州ファンはもちろん、旅を愛する全ての人々の次の旅先になりえる素敵な事柄としてここに紹介したい。
◆大賞
嬉野茶時(うれしのちゃどき)[佐賀・嬉野]
佐賀県嬉野の歴史的伝統文化である、嬉野茶、肥前吉田焼、温泉。この3つの“文化”を後世へ守り伝えるため、時代の変化に合わせた新しい切り口でその魅力を表現し発信するプロジェクト。
お茶の楽しみ方を「茶空間体験」「茶輪」「歩茶」など様々なかたちで表現し、それを体験できる「ティーツーリズム」として、地域文化と結びついたラグジュアリーな旅の提案を実現した。またその“進化”によって歴史的伝統文化の価値の再構築が成され、生産者の地位向上と日本の茶文化の守護にも貢献したとされている。
嬉野茶時が、嬉野という地域の魅力を生み出す中心になっているという評価もあがり、体験できる旅としても、とても魅力的な機会を創り出し、ここからさらなる発展を遂げてゆくであろう。
◆大賞
奥津爾(おくつ ちかし)氏
長崎の雲仙から在来種野菜の素晴らしさを、地元だけでなく全国に広め、在来種を守り継ぐ活動を続けている奥津氏は、農家の岩崎政利氏が約40年間自家採種によって守り継いできた野菜の多様性を地域内外に発信する「オーガニック直売所タネト」を運営。
店では農薬と化学肥料を使わない雲仙の野菜を多く扱い、それらの野菜は一般の農家のように市販の種を買って一代限りの交配種野菜をつくるのではなく、種から育て種を採り、時間をかけてその地に根付いた在来種野菜の、強い香りやうまみなど多様な味を楽しむという魅力を地域内外に届けている。
その真摯な取り組みが新たなつながりや共働を生み出し、またそれが消費拡大や生産者の地位向上だけでなく、さらには移住者の呼び込みにもつながるという意義深いものとなっているのだ。
タネトを拠点に雲仙の様々な場所で野菜を愉しめるという環境も生まれ、その体験自体が観光の目的になるという発展を遂げており、地域への貢献という意味でも高く評価された。
◆特別賞ーNEXT CREATEー
中島大貴(なかしま ひろたか)氏
佐賀・嬉野塩田エリア唯一の酪農家。水田、酪農、堆肥による循環を守りながら時代に合った最終成果物を生み出すという考えのもと酪農を行い、コーヒーの新しい抽出方法として牛乳を用いた「MILKBREW COFFEE」という新しいフードカルチャーのプラットフォームとして、塩田津に築167年の蔵を改装したカフェを開業。
搾りたてのミルクでコーヒーを淹れるという、ありそうでなかった発想は素晴らしく、飲んでみたいと誰もが思う一杯を創り出した。このカフェを拠点に塩田エリアの文化と情報の発信、そして地域の交流がさらに促されることが期待され、特別賞ーNEXT CREATEーが贈られた。
◆特別賞ーNEXT CREATEー
馬場匡平(ばば きょうへい)氏
九州には名高い窯元がいくつもあるが、その一つである長崎・波佐見焼のさらなる認知向上とブランディングを図る取り組みを行う。また、波佐見焼に触れられる場所として私設公園「HIROPPA」を波佐見の地に開設。波佐見焼を感じる広場として地元の子供たちにも開放するなど、未来につながる地域への還元を図る姿勢も高く評価された。
今後は地域の住民にとっての情報発信と交流拠点であるばかりでなく、波佐見のまちに溶け込んだ観光資源としての更なる発展が期待されている。
◆特別賞ーNEXT CREATEー
森一峻(もり かずたか)氏
長崎の東彼杵から、地域の魅力を発信するWebサイト「くじらの髭」を運営しながら、地元住民と移住者を繋ぎ、移住促進や開業支援を実施。
地域の交流と情報発信の拠点となる「Sorrisoriso 千綿第三瀬戸米倉庫」を運営することで、「住む(生きる)」ための最重要課題ともいえる「働く」ためのトライアルの場を創り出し、地元住民と移住者の共働を生み出している。
イベント等を通して他地域との連携も積極的に行い、その継続によりまちづくりの中心となっている姿が受賞のポイントとなった。
以上、5つの独自性に富んだ素晴らしい取り組みを紹介させていただいた。大賞はどちらも全国でも唯一無二といえる取組みであり、大賞に次ぐ特別賞は取組みの更なる発展を期待するというという意味が込められ、ーNEXT CREATEーと副題がついている。
ちなみにこれらの賞の審査基準は下記の5つ。
- ①「伝統」そのまち固有の風土、歴史、伝承を尊重している。
②「進化」既存の概念にとらわれず、未来につながる新たな価値を創造している。
③「循環」豊かな自然を生かし、守り、持続的に発展している。
④「共働」まち全体を巻き込みながら、尽力している。
⑤「多様」旅人、住民を問わず、誰もが体感できる。
表彰式で披露された各受賞者のスピーチも、それぞれが弁舌鮮やかで素晴らしく、彼らが強い意志とおそらくは使命感と共にその営みを行っているという事が伺えた。
9月23日の西九州新幹線の開通で、これらの魅力的なディスティネーションへのアクセスがますます便利に快適になってゆく。コロナ禍の規制も少しずつ緩み始めそうな秋以降、行楽シーズンの到来と共に、西九州へ足を運び、この魅力ある人々と風土に触れることで、人生における旅の醍醐味をより強く深く味わうことが出来るに違いない。
九州旅客鉄道「西九州観光まちづくりAWARD」事務局
kyushu.award@jrkyushu.co.jp
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2022.09.23(金)
文=CREA編集部