無造作に並べられているととのい椅子に座れば、都電荒川線の走行音と共鳴するかのようにかすかに感じる心地よい揺れ。ここは4DXサウナ劇場かのような臨場感。でもこれはまぎれもないリアル体験。感傷的な気分にどっぷり浸りながら、これを数回くりかえした結果、“ととのい泣き”の境地にまで到達。

料亭の名残が点在する通りを歩きお目当ての店へ!

 店をでて外気を感じながらゆったり散歩する。ここは外国人も多く、ハラルマーケットを横目にお目当ての店を目指し大塚三業地へ。かつて花街だったこのストリートには、なべ家という老舗の江戸料理店があった事でも知られている。今、往時の面影はほぼないが、かつての料亭の名残はかすかに点在している。

 少し歩くと、まるで『男はつらいよ』に出てくるかのような小さなお店が見えてくる。居酒屋種子島。引き戸を開けると出迎えてくれるのは大女将と若女将。4席の小さなカウンターと横には入れ込みの小さな座敷。そこにちょこんと腰掛け、にっこり微笑む大女将。

 注文が来るまでの間、種子島ご出身という大女将と世間話。昔は亡くなられたご主人と二人で切り盛りされていたのを、今は娘さんが引き継がれているという。頃合いで供される切り干し大根のお通しと生ビール。冷えたジョッキがありがたい。

 のどを潤し、切り干し大根をつまむ。うん、優しい味付けだ。お通しは毎日変わり、他にはナスの煮浸しなど、季節によって変わるという。カウンターに並ぶ常連さんはまったりとテレビを見ている。時間の流れがとてもゆっくりで心地がよい。

 カウンターの上には大皿に乗った家庭料理の数々。心づくしの料理は娘さんが担当している。定番の短冊メニューとホワイトボードには手書きの日替わりメニュー。この日はアジフライとビーフシチューを頼む。

 

アジフライ、ビーフシチューのお味は……

 果たして供されたアジフライはカリッと揚がっていてビールがこの上なく進む。複雑なことは一切していないが、その仕事の丁寧さが妙に心にしみる。レモンサワーに切り替え、喉を潤しているとビーフシチューが到来。添えられたフランスパンをあてに飲む。シチューの味が優しく、温かい。

2022.08.20(土)
文=五箇 公貴