「人生低空飛行」を演じた川栄が受け入れられたワケ
川栄李奈は3世代ヒロインの中で、あえて10代20代はパッとしない「人生低空飛行の女の子(公式説明より)」ひなたを演じた。だが、おっとりとしたヒロインに何かと厳しい朝ドラ視聴者にひなたが好感をもって受け入れられていたのは、川栄李奈の卓越した演技力によるところが大きいだろう。神奈川県出身にも関わらず方言を巧みに使いこなしていることさえ、あまりに自然で多くの視聴者にその事実を意識させていない。
最終週で見せるひなたの飛躍は、それまでの「低空飛行」を丁寧に演じてきた彼女の演技力が支えてきたものだ。
最後の最後である2025年、3世代のアンカーであるひなたがどんな人生を選ぶのかは、これを書いている時点ではまだわからない。だがそれは、ラジオ英会話と並んで日本の女性に伴走してきた「15分間の物語」に、また新しい1ページを加えるだろう。「これは、すべての『私』の物語。」と最初に銘打たれたように、3世代のヒロインが演じた異例の朝ドラの真の主人公は、この百年を生きた多くの日本女性たちだったのかもしれない。
入院した知人を見舞いに病院を訪れると、晩年の雪衣にとってそうであったように、病院内では毎日の連続テレビ小説が最大の人気コンテンツであることに気がつく。
病室のテレビで、診察の待合室のビジョンで、老人も子供も毎日の朝ドラを見る。朝ドラとはそうした、決して弱者を切り捨てて高踏的に進むことのできないコンテンツだ。ラジオの英会話がいつの時代も英語初心者に向けて開かれているように。ラジオ英会話と連続テレビ小説について今作で語られる2つの台詞は、そのことを物語っているように思える。
「好きなんじゃ。一日15分だけの、この時間が」(雪衣)
「英語の勉強、これからも続けてください。きっとあなたをどこか思いもよらない場所まで連れていってくれますよ」(アニー=安子)
百年の物語『カムカムエヴリバディ』は終わり、また次の朝ドラが始まる。次の作品でもまた、新しい時代の新しい語彙が獲得され、いつの時代も変わらない古い文法が参照されるのだろう。連続テレビ小説は、この国の弱く平凡な人々の共通言語の教室として、また次の時代を毎日、15分ずつ歩き始める。
2022.04.13(水)
文=CDB