初共演が叶ったときは本当に嬉しかった

──一方、長澤さんは、井戸の人質となる妻をどう捉えておられますか。

 長澤 難しいですけど、抗えない中にいる人だから、状況は違っても、こういったことは生活の中にもあるなと思うんです。周りに流されて自分の意見がなくなってしまったり。だからそういう普遍的なことを役に投影できるといいなとは思っています。

 阿部 長澤さんが妻の役をやるって聞いて、ぴったりだと思いました。そうだ、長澤さんがいたじゃん、と。

──どこがぴったりだと思われたんですか。

 阿部 じゃあ、どこがぴったりじゃないと思うんですか(笑)。あのストリッパーの格好も似合うだろうし、啖呵を切るのも上手いし、ぴったりじゃないところがありますか(笑)。

 長澤 ハハハハハ!

 阿部 そして、笑いもできる人ですからね。レポーター役をやるときはふざけてほしい。

 長澤 ふざけていいんですか?

 阿部 はい。僕はインタビューを受ける側ですから、グイグイきてください。

──おふたりは、昨年公開された映画『MOTHER マザー』が初共演でした。そこから、同じく昨年上演された舞台『フリムンシスターズ』、そして今回と、急に共演が続いています。ご一緒されてみていかがでしたか。

 長澤 私はずっといつか阿部さんと同じ作品に出たいと思っていましたから、共演できたときは本当に嬉しくて。今回も話を聞いた途端、「ヤッター!」って飛び上がりました(笑)。

──一緒にやりたいと思う理由は?

 長澤 それはやっぱり、ほかの誰にもない、阿部さんにしかないものを持っていらっしゃるからです。なのに芝居が押し付けがましくないから、こっちが頑張らないと追いつかないんですよね。そのさっぱりとしているところがまたいいんです。

 お芝居を見て勝手に、こういうふうにやるんだ、すごいなと思うことはありますけど、あくまでも対等な共演者としていられる感じがあって。そうなれるのは、阿部さんが人に対してリスペクトがある人だからだろうなと思いますけど。とにかく私は阿部サダヲさんが大好きです(笑)!

 阿部 嬉しいですけど、目の前に本人がいてなかなかこんなふうに言えないですよね(笑)。

 いや本当に、共演して思いましたけど、長澤さんがいるとみんなが幸せになるんです。みんなに気を遣ってくれるし、話していて楽しいし、大女優さんなのに小劇場まで下りてきてくれるというか(笑)、すごく接しやすくて親しみやすいんですよ。一緒にお芝居をやっていても楽しいし。

 長澤 ほんとですか!?

 阿部 長澤さんって、これはどういうことですかみたいな質問をしないタイプだと思うんですよね。とにかくやろうぜっていう。僕はそういうふうに進めるほうが好きなんです。話し合いとかをするよりも。

 長澤 確かに、演出家さんと話すのは大事だと思いますけど、私もまずは自分で考えたことをやってみるっていう感じです。

 阿部 そういう意味では、感覚が合う気がします。性格とかはまた違うんでしょうけど。

2021.09.25(土)
文=大内弓子
撮影=深野未季
ヘアメイク=スズキミナコ
スタイリング=藤井希恵