ゲームソフトは基本的に、発売日に一気に売れ、その後は次第に売れなくなる商材です。もちろんソフトによってタイプは違いますし、今は追加バージョンアップもあるので、ソフトの売れる寿命は長くなる傾向にありますが、最初の2カ月で全体の8割を売るという見立てが業界ではいまだによく言われています。
その中でも任天堂のソフトがなぜこれだけ「長く売れるのか」。それは、安定した面白さが期待できるソフトを出す「実績」と「信頼感」が大きな要因でしょう。
ゲームソフトは「企画時に面白いと想定したものの、実際に作ってみたら案外つまらなかった」「作ってみたら予想外にとんでもなく面白い!」など、作ってみなければ実際のところどうなるか分からない商材です。どうしても、ユーザーの好みにあわない「つまらないゲーム」は一定の確率で出現してしまいます。
一方で、ビジネスとしてみれば、「売り上げを立てないと困る」という状況も起こりえます。開発者が納得できず、本音ではもう少しクオリティーをアップするために発売の延期を願っても、会社の経営状況を見て発売せざるを得ない……なんて事態もないわけではありません。
この点、任天堂は開発期間を長く取り、かつテストプレーをしっかりして、必要とあれば大幅な発売の延期をします。さらに代表取締役フェローである宮本茂氏の厳しい管理によって、疑問があればソフトを作り直すことさえあります。
さらに、世界のどの国でも、性別や世代を問わず売れるようにと、ゲームの内容にも配慮を重ねます。海外で売れれば大きな収益が得られますが、そのぶん開発する側にも制約があり負担がかかります。それでも「世界各国の幅広い層の人々へ作る」という考えは徹底しています。
「マリカー」「あつ森」に見る任天堂の“さじ加減”
「マリオカート」を例にとれば、そもそも自動車ではなくカートを題材にしているのも絶妙です。どちらかといえば男性ゲーマー寄りなテーマですが、自動車にすればリアル志向になりがちなところを、カートであればより「柔らかい」イメージが働きます。自動車が題材になった「カーレース」であれば失敗=事故ですが、カートならそうではありません。子供たちにも触れやすく、一発逆転を含めてゲーム的なギミック(仕掛け)を用意し、キャラによって性能差をつけて、かつ、友達と一緒にプレーして楽しい要素もあります。
2021.08.24(火)
文=河村鳴紘