「私はタレントだけど、大久保さんは?」
普通の芸人さんの普通のプライドなら、いくら週6でバイトをしていようが、ひと月に1回しか舞台に立っていなかろうが、自分のことを芸人と言います。でも大久保さんは、というか、そもそも私たちはネタをコンスタントに作っておらず、ライブもファンだけを集めた単独ライブというぬるい環境でしかやらず、ネタから逃げている罪悪感があり、私は女というだけで、ブサイクというだけですぐにテレビに出られたという自覚もあり、胸を張って自らを芸人と名乗ることができませんでした。だから、私は自分のことを「タレント」と呼んでいます。芸をしてないから芸人とは言えないけど、タレント(才能)とは言えるって……そっちの方がおこがましいか?
「私はタレントだけど、大久保さんは?」「うーん……何かなぁ」「OLさんじゃね?」
大久保さんを「OLさん」と呼んだら、怒って、奮起して、本気出すかと思ったら、むしろ自ら「OL」と名乗るようになりました。大久保さんの口から「頑張ろうよ」という言葉は43年の付き合いになりますが、まだ一度も聞いたことがありません。頑張ろうよ、と煩く言いすぎた私を大久保さんは煙たがっていました。万策尽きたと思いました。
しかし、万策なんか尽きてなく、むしろ私のこしらえてきた策が全部要らなかったようです。自らをOLと名乗ることで、歯車はうまく回り出したのです。世間からのウケが良くなったのです。単独ライブでもOLネタをやったりすると「説得力があって面白い」となり、初めて見る人は「OLにしては面白い」となってゆきました。OLとなった途端に、求められるモノが変わっていったのです。
大久保さんは芝居が下手ではないですが、上手いわけでもありません。大久保さんはどんな無理な役でも綺麗にこぢんまり、70点に収めるのです。「出オチかよぉ」というわかりやすい笑いにはならないです。あまりに当たり前の顔をしているのでつい見逃しそうになる、万引き常習犯のふてぶてしさがあるのです。これが最大の魅力です。だからコントを作るときは、いつも大久保さんに何着せようかな、何やったら見てる人が「腹たつー」と言ってくれるかな、から考えていました。学園一の人気者の美少女、町工場で肉体労働する男、バブル期の水着のキャンペーンレディ、裸の先生、猫に変身する美少女……。大久保さんにはプロがたまに見せるいやらしさが全くないのです。淡々とこなします。キャリアが浅いのにベテラン感。どっか他人事感。それが地味にずーっとクスクス面白いんです。ここに「OL」という肩書きが金棒になったのでした。
2021.05.31(月)
文=光浦靖子