とりわけ「モーション・ブルー・ヨコハマ」や「コットンクラブ」、そして東京青山にあってジャズの殿堂として知られる「ブルーノート東京」などを運営するブルーノート・ジャパンは、日本がコロナ禍になって間もない時期から、いち早くライブの配信を手がけてきた実績がある。
リアルの来店客とインターネット上での「来店」客、双方を大切に
音楽を中心としたライブイベントのあり方は、これからどうなっていくのだろうか。
ブルーノート・ジャパン取締役、エグゼクティブ・プロデューサーの小林栄さんがこう教えてくれた。
「たしかに私たちは昨年春には、これから『配信』が重要になると見て、配信コンテンツ用機材の購入や視聴チケット販売システムの整備などに取り組みました。ライブハウスとしてはかなり動き出しが早かったはず。
これは以前から構想があったからですね。うちは古くから、そしてこれからも会場でライブをして、その場で食事やお酒を楽しんでいただくかたちを守り続けるつもりですが、同時に貴重なライブのアーカイブは残しておくべきだと以前から考えていました。手探りで映像づくりを模索していたところにコロナ禍となったので、試みを加速させたというところです」
これからはリアルの来店客とインターネット上での「来店」客、双方を大切にしていくこととなりそうだ。その方針はコロナ禍が収束しても変わらないので、映像コンテンツのクオリティはいっそう高めていくつもりだという。
「ライブハウスはそこにあり続け、発信し続けることが大切」
今の時世はエンターテインメント界になかなか厳しく、先の見通しもつきづらい。今後の課題を小林さんに問うと、まずはとにかく続けることだときっぱり。
「ライブハウスはそこにあり続け、発信し続けることが何より大切です。私たちの活動に価値があるとしたら、それはたとえばブルーノート東京が1988年の開業以来、ずっと同じ場所で音楽を届け続けてきたという事実だけでしょうから。
私たちが考えているのはシンプルなひとつのことだけ。いい空間をご提供して、みなさんにこれを味わっていただきたい。その一心です。なのでこれまで通り店に足を運んでもらえたらうれしいですし、配信を楽しんでいただく方にもできればその場の空気感まで届けたい。そのためにも映像、音響、演出に磨きをかけることは怠れませんね」
たとえ「不要不急」などという声が聞こえてきても、エンターテインメントのつくり手がそう簡単にへこたれることはなさそうだ。状況がどうあれ、ライブハウスから笑いや音楽が鳴り響いてくれるというのは、何より心の支えになるではないか。
2021.05.23(日)
文=山内宏泰