「白線流し」
当時17歳! 美少年の憂いのある演技に注目!
では改めて過去作を掘り下げていきましょう。
長瀬の作品を語る上で、最初に取り上げたいのが「白線流し」(96年・フジテレビ系)。これは長野県松本市の高校を舞台に、卒業までの200日を過ごす3年生を中心とした男女7人の群像劇。
まずオープニングのタイトルバックが最高! 教室でのささやかな居眠り、水飲み場で上向きの蛇口が描く放物線、運動部が走るグラウンド、黒板の落書き、7人の表情と、スピッツのテーマソング「空も飛べるはず」……青春のきらめきのすべてがここに詰まっています。
長瀬が演じる大河内渉は、定時制に通う青年。母親が出て行ったあと父が癌で亡くなり、引き取られた親戚の家でも肩身が狭い思いをしたことから、中学卒業後はひとり暮らしをしながら工場で働いています。成績優秀で真面目な性格だけど、その不幸な生い立ちからひねくれてしまい、他人に深入りすることなく、誰に対しても距離を置いている役どころでした。
今ではワイルドな魅力がある長瀬ですが、このときはどんなに隠そうとしたところで美しさがだだ漏れしてしまう青年期。まるで少女漫画から飛び出したかのようなルックスを武器に、本来なら王道のキラキラ学園モノに主演してもよさそうなところなのですが……本作で見せるのは、純粋でまだ田舎臭いともいえる、センチメンタルな姿。この影のあるキャラクターを演じたことは、長瀬の俳優人生にとってはとても価値のあったことだと思います。粗削りながらナイーブさを感じさせる、長瀬智也の原点ともいえる役になりました。このときからすでに、ただ者ではないオーラを放っているとしか言いようがないのです。
舞台である松本のロケーションも最高。単線列車に無人のホーム、そして片田舎の自然は、まさに二度と戻ることのできない、一度きりの青春を思わせる風景です。都会の学園ドラマでは感じることができない、本来の高校生の物語だと思います。
さらに高校卒業後のそれぞれの生き様を描いたスペシャルドラマ版が5回もつくられているのもポイント。高校卒業から25歳までの時間軸をシリーズ全体通して描いています。10代後半から20代前半の悩み多き年代の中で生きる道を探る内容は、どうしても自分自身と重ね合わさずにはいられません! 恋は終わるし、やりたい仕事はできない。夢見る頃はどんどん過ぎてしまう非情な現実を見せつけられながらも、そこに感動があるんですよね。「北の国から」シリーズよろしく、長期的に登場人物の成長を描くことでコアなファンが多い正統派ドラマとなっています。
「池袋ウエストゲートパーク」
クドカンとの名タッグの誕生! 男が憧れる男像
転機となったのは脚本家・宮藤官九郎との初共作となった「池袋ウエストゲートパーク」(00年・TBS系)。ハードボイルドで刺激的なのにおもしろい、バイオレンスアクションコメディにみんなが熱狂しました。“池袋のトラブルシューター”として難事件を解決する主人公・真島マコトは、当たり役といえます。とにかくかっこいいとしか言いようがない。マコトというキャラクターへの憧れは、当時多くの男子諸君の人格形成に影響を与えたのではないでしょうか。
劇中で使われるマコトの着メロの「Born To Be Wild」は大流行で多くの人が設定していましたし、電話に出る時の第一声は「もしもし」ではなく、マコトの「はいマコト」を真似して「はい○○(名前)」の人が急増しました。
ドラマは援助交際にひきこもり、虐待、ストーカー、マルチ商法など、時代を表す社会病理が次々と扱われています。ダチのため、そして池袋のため。社会の底辺からの声を拾い上げるような脚本はさすがクドカンといった感じ。
マコトは原作では頭脳派なキャラなのですが、ドラマでは少しキャラの変更が行われています。このキャラ変更の妙を本当に褒めたい! とにかくキレるキャラ(00年は少年犯罪のニュースが多く、少年凶悪犯が「キレる17歳」などとマスコミで呼ばれていた時期だった)なのですが、どこか憎めない。なぜなら、抜けているところがちゃんとあるから。
ドラマの中でマコトが「麻婆茄子」を「あさばばなす」と読む場面がありますが、これ、私たちが知ってるバラエティでの長瀬の天然エピソードと同じじゃないですか! ショートニュース番組「レインボー発(れいんぼーはつ)」をずっと「レインボ・一発(れいんぼいっぱつ)」だと思い込み、「ビーフorチキン」と尋ねられたら「バード」と答える長瀬そのものです。
また、マコトの大好物は焼きそばですが、実際の長瀬が「とんねるずのみなさんのおかげでした」の食わず嫌い王に出演した際に選んだメニューは「チャーハン」「ガーリックステーキ」「カレーライス」「キノコソテー」。子どもか!ってくらい好物わかりやすすぎ(実食の際、キノコを箸で避けていた)! 本当に天真爛漫な子どもがそのまま大きくなったような、TOKIOの末っ子。正義感と友情に突っ走るマコトのキャラに、この愛らしい長瀬の人格がちゃんと宿っている……!
もちろん、「男性が選ぶジャニーズ男前ランキング」で1位になるほどのルックスと、180cmを超える長身が生み出す色気と男っぽさも存分に発揮しています。長瀬はこの作品をきっかけに、男が憧れるジャニーズアイドルとしての地位をしっかり確立していきます。
その後もクドカンとは「タイガー&ドラゴン」(06年・TBS系)「うぬぼれ刑事」(10年・TBS系)でもタッグを組む名コンビへと成長していきます。世間が思い描く長瀬ドラマのイメージの影にはだいたいクドカンがいるといっても過言ではないでしょう。男気と正義感、としてどこか憎めない愛嬌。どれも長瀬のパブリックイメージをうっすらまとっている、長瀬にしかできない役です。
2021.03.19(金)
文=綿貫大介