土屋太鳳・田中圭共演のサスペンス映画『哀愁しんでれら』。エッジの効いたストーリー展開が話題だ。本作が満を持しての商業映画デビューとなった渡部亮平監督に、空白の8年間やオリジナル作品への思いを聞いた。

●TV好きから脚本家の道へ

――幼い頃の夢は?

 幼稚園の頃は、ゴミ収集車のおじさんに憧れていました。いつも決まった時間に現れて、作業した後に颯爽と去っていく感じが、どこかヒーローみたいに見えたんです。小学生になってからは野球を始めたので、プロ野球選手ですね。ただ、「映画監督になりたい」とも言っていたんですよ。どんな仕事かよく分からないながらも、TV番組を作る人の延長みたいな感覚で。

――映画業界というよりは、TV業界への憧れが強かったということですか?

 そうですね。「踊る大捜査線」「オレンジデイズ」「アルジャーノンに花束を」といったドラマが好きでした。高校になると、鈴木おさむさんに憧れて、バラエティ番組の放送作家になりたいと思うようになり、就職活動ではドラマ制作志望で、TV局ばかり受けていました。全部落ちてしまいましたが(笑)。

――その後、脚本の勉強を始められます。

 大学時代には小説を書いていたんです。でも、物語を作るのは好きだけど、文才がないことに気付き始め、『Shall we ダンス?』の脚本を読んだのをきっかけに、脚本を勉強し始めました。TSUTAYAでバイトしながら、いろんな映画を観つつ、毎月のように新作を書き続けたのですが、シナリオ学校で評価されても映像化されることはないんです。そんなジレンマに陥っていたときに、かなりの自信作ができたので、「フジテレビヤングシナリオ大賞」に応募したんです。でも、第1次審査で落選してしまったんです。

●初監督作の自主映画が高評価・劇場公開


――それが初監督作となる2012年の自主映画『かしこい狗は、吠えずに笑う』ですね。

 コンテストでは落選しましたが、僕の脚本の面白さは映像化しないと分かってもらえないと諦めなかったんです。そして、ちょうどポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』を観た衝撃もあり、映画監督として、「1本撮ってみよう!」と決断して、スタッフをmixiとTwitterで募集しました。それまでは、デジカメで遊び半分で映像を撮ったことしかなかったんですが……。

 

――自主映画『かしこい狗は、吠えずに笑う』は「ぴあフィルムフェスティバル」エンタテインメント賞と映画ファン賞のほか、「日本映画プロフェッショナル大賞」新人監督賞など、さまざまな賞を受賞。劇場公開もされ、映画ファンからも高い評価を受けました。

 これを機に、作品を気に入ってくださった犬童一心監督に、いろんな仕事をお声がけしていただくなど、夢にまで見た映画業界に入ることができました。高校時代に野球部でイップスになりボールが投げられなくなったり、それまでも何度か転機のようなものはありましたが、このときが最大の転機といえるかもしれませんね。

――2014年の「セーラーゾンビ」以降、脚本や演出など、活動の場がTV中心になっていきましたね。

 その後、有難いことに、映画監督としての企画はたくさんいただきました。オリジナルも原作モノも脚本をいっぱい書きましたが、どれも形にならなかっただけなんです。「予算は低いですが、監督がやりたいものなら何でも!」という話も、いざ脚本を渡すと「これは厳しいですね」となってしまうんです(笑)。そんななか、TVドラマの企画は、あまり流れることはなかったんですね。

2021.02.08(月)
文=くれい響
写真=佐藤亘