食は人の営みを支えるものであり、文化であり、そして何よりも歓びに満ちたものです。そこで食の達人に、「お取り寄せ」をテーマに、その愉しみや商品との出会いについて、綴っていただきました。第8回はタベアルキストのマッキー牧元さんです。

◆ ◆ ◆

 白濁したスープを一口飲んで、やられた。

 とろりと口に流れ込んで、深い滋味がゆっくりと広がっていく。溶け込んだコラーゲンが、唇を舐め、舌を包み込むのだが、そこにはいやらしさが微塵もない。

 濃密なのだが、スープに雑味が一切ないので、後口がすっきりとしている。鶏肉の純粋だけを凝縮させているので、淀みが一切ないのである。なにかこう、スープの滋養で体が溶けていくような感覚がある。

 これはまごうことなき、「つきじ治作」の水炊きである。あの広大な料亭で、悠々たる庭を眺めながらいただく水炊きと寸分変わらない。

 なんでも水炊きを作る料理人は、代々一人だけが担当し、その技は一子相伝なのだという。様々な工夫や技がいるらしいが、中でも5時間炊くというのが重要だと聞いた。だが単なる時間だけではないのだろう。季節に合わせて火加減を調整し、炊き上がる様子を常に観察し、味わいのことわりをはかる眼力が必要なのに違いない。

 専門の職人が、一心に目をこらしながら鶏肉を炊いている姿が目に浮かぶ。

 だからだろうか。食べ進むと、飽くことがないばかりか、食欲を次第に湧き上がらせるような勢いがある。

 具は、肉質がきめ細かい徳島・阿波尾鶏で、このスープをまとった鶏肉をかじる瞬間が、たまらない。他の具材は、本店同様、玉ねぎだけという潔さで臨むのがいいだろう。

 またポン酢も強すぎずに優しいが、スープをレンゲに取り、そこに鶏肉を乗せて、スープと一緒に食べる食べ方がオススメである。スープを飲み、鶏肉をふた切れ食べただけで、もう唇周りはゼラチン質が粘りついて、ペタペタである。

 最後は雑炊をいただこう。ご飯の甘みとコラーゲンの甘みが溶け合って、気分をまったりとさせる。

 食べ終わると、気持ちが柔らかくなった。それはまだ時間と気持ちにゆとりがあった時代の贅沢が、このスープに生きているからではないだろうか。

2020.12.21(月)
文=マッキー牧元