「LOVE」/クセのある愛の形を歌い上げた利己的ソング

 締めはこの曲。【偶然だね こんな風に会う度に 君は変わってく 見なれない そのピアスのせいなのかな? ちょっとだけキレイだよ】、こんなドラマのセリフのような語りかけ調で始まる「LOVE」(1993年発売『Versus』収録)。

 この一節だけを聴けば、エモい片思いソングかな?……と思うでしょう。けれど実はコレ、自分にカノジョはいるものの、カレシ持ちの女友達がどうにも気になっちゃって仕方ないよ……という、直球ラブに見せかけたクセが強すぎる歌なのです。

【彼になる気もなくて 責任などさらさらさ】と言いつつ、【他の誰かに君を染められるのが気にかかる】とのこと。しかし、やはり【でも“愛してる”とは違ってる】そうで……。

 はい、エゴイズム。

 とは言え、恋愛ソングにおいてこれ以上ないほど直球な「LOVE」という題名を、惜しげもなく採用しておきながら、【燃えるような恋じゃなく ときめきでもない】という、曖昧な感情をブッ込んでくる桜井和寿さんのセンスに脱帽したものでした。

“陰”があるからこそ“陽”の恋愛ソングが引き立つ

 ぬるっと“非さわやか”。諦観からのジェラシー。叙情的に思考停止。さらっと自己中。……激情ではない穏やかな狂おしさでつむがれる言葉たち。

 今回は個人的に好きな「Over」、「ファスナー」、「UFO」、「LOVE」を紹介しましたが、どれもエグくて哀れな、でも愛おしい男の本質を表現しているんですよね。筆者はこういった“非さわやか”さこそ桜井節の真骨頂だと感じています。

 少なくとも、“非さわやか”な“陰” の具体的恋愛ソングがカウンターになっているからこそ、「抱きしめたい」や「Replay」といった“陽” の具体的恋愛ソングが引き立っているのは確かでしょう。

 最後に余談。抽象的タイプの恋愛ソングも“陽”と“陰”に細分化することができるんです。

 例に挙げていた「名もなき詩」や「NOT FOUND」は“陽”の抽象的恋愛ソングですが、「ジェラシー」(1994年発売『Atomic Heart』収録)や「Brandnew my lover」(1997年発売『BOLERO』収録)といった、ある意味狂気的な“陰”の抽象的恋愛ソングもあり……。これらの曲はもはや“恋愛ソング”という枠組におさまりきらない、裏・桜井節とも言えるハードかつディープな世界観が形成されているんですよね。興味があるかたはぜひ、ご一聴ください。

2020.12.06(日)
文=堺屋 大地