多すぎて覚えられない「人身事故防止箇条」
ところでクマと遭遇したときの対処法といえば、「死んだふり」が広く知られる。記録としては明治43年の新聞記事に「死人の真似」をして助かった事例が初出で、「死んだふり」という表現は昭和6年からだという。
一方で「死んだふり」への疑問もよく聞く。本書には「死んだ振りは致命的だ、ナタで闘え」という地域もあったとある。
しかし米田さんはそれを「昭和期の医療水準の低い山間僻地で行われた手法」だと断じる。たとえクマの攻撃を食らおうとも、決定打を受けなければ、現代日本の医療であれば助かるからだ。
では、どうするのがいいのか。米田さんの提言はこうだ。
「首を両手でカバーし、体を丸めて地面に固着することによって、重要器官を守れ」
不用意にクマを刺激することなく、たとえ攻撃に晒されても軽症にとどめる。本書が謳う「正しい襲われ方」とは、実は「死んだふり」と同義であった。
本書の最後には「ツキノワグマによる人身事故防止の箇条」がある。この手のものは通常、5箇条くらいのものだが、ここには56箇条もある。
これだけあると覚えようもないけれども、裏を返せば、それほどクマは奥深いということだろう。
そんなクマを研究するあまり、8回も襲われた米田さん。『熊が人を襲うとき』は、クマの恐ろしさを知ると同時に、著者の探究心に魅了される、そんな一冊でもある。
【読むべき本 その①】
『熊が人を襲うとき』
米田一彦/著
つり人社 1,800円
「熊の分布域がかつてないほど広がりを見せる昨今、人と熊の遭遇はもはや山奥だけではなくなった。登山者、釣り人、山菜・キノコ採り、すべてのアウトドア・ファン必携の書」
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2020.12.04(金)
文=urabansea