「書籍の山と書籍の山の合間で寝起きしている」ほど、日々ノンフィクション本を読み漁っているurbanseaさん。

 今注目のノンフィクション愛好家に、今読んでおきたい3冊を教えてもらいました。


クマに8回襲われた専門家が教える「正しい襲われ方」

 旅行に出かけたい、しかしコロナウイルス情勢も気になる。そんな気分でいるところ、もうひとつ気をつけないといけないものが現れた。クマだ。

 今年はエサになる木の実が不作のため、クマの出没が増えていて、市街地に現れた事例も相次いでいる。

 そんななか、朝日新聞デジタルの「クマに死んだふりは有効か 8回襲われた専門家の教え」(2020年10月26日[月]配信)が話題になった。

 はたして「8回襲われた専門家」とは、クマの専門家なのか? 襲われる専門家なのか? と思うところだが、その専門家とは日本ツキノワグマ研究所の米田一彦さんだ。

 その米田さん、『熊が人を襲うとき』(つり人社・2017年)を著していて、これが滅法、面白い。

 米田さんはクマの生息状況調査などをする傍らで、各地の図書館を訪ねては、明治時代からの今日にいたるまでの新聞記事から、クマの事故についての発生時期や負傷した箇所、闘った際の道具などを調べ上げていく。

 その数、実に1993件。だからクマに襲われた経験も知識も豊富なのである。

 そんなクマのプロフェッショナルが「正しい襲われ方」を説いているのがこの本だ。

 「正しい襲われ方」とは奇異に思うだろう。あるいは「いやいや襲われない方法を教えてくれよ」「撃退方法はないのか」と思おうか。

 しかし本書を読めばわかる。クマと対峙したときは、いかにしてその攻撃を軽症にとどめ、致命傷を避けるかが重要なのだと。

 ここで紹介される事例の中には、ナタやカマなどの農具で闘う者もいれば、クマの口の中にドライバーを突っ込んで撃退した猛者もいる。

 いっぽうでクマには、強く出る相手に対してより強く攻撃する性質がある。そのため、最悪の場合、ツメでの攻撃で顔を剥がれたり、腹部をえぐられたりしてしまう。

 だから応戦するにしても、「カマで抵抗した後、死んだ振りに転じ」て助かった事例があるように、格闘の勝負で勝とうとしないほうが結果的に助かったりする。

2020.12.04(金)
文=urabansea