二宮和也主演で話題の映画『浅田家!』が封切られた。ある男の半生を追いかけるストーリーなのだけど、二宮扮する人物には、れっきとしたモデルがいる。
写真家・浅田政志である。映画のタイトルは、彼のデビュー写真集『浅田家』からとっている。
映画公開と時期を同じくして、その浅田政志が個展を開催中だ。東京渋谷、PARCO MUSEUM TOKYOでの「浅田撮影局」。
いつだって愛らしい「赤ちゃん写真」
会場に展開されているのは、大きく引き伸ばされた赤ちゃんの写真の数々。写っているのはいつも同じひとりで、写真家自身の初めての子どもが、被写体になっているのである。
赤ん坊はどの写真でも、じつにいい表情をしている。破顔一笑もあれば、キョトンと不思議そうに外界を見渡していたり。むずかっていたり、大泣きしていることも。何れにしても、常時アタマと身体をフル稼働させて、全力で生きていることがよく伝わってくる。観る側の感情は、大いに揺さぶられてしまう。
次々と現れる写真に統一感があるのは、同じ赤ちゃんが写っていることのほかに、あらゆるカットに共通のテーマが設定されているから。縁起のいいものとのコラボレーションが、なされているのだ。
生まれたばかりのころは、獅子舞やら福の神やら、さまざまな縁起物に囲まれて寝そべる姿を撮影。
外出できるようになると、祭りに出てきた天狗や長寿のおじいさんら、縁起のよさそうな人に抱っこしてもらって写真に収まる。
自分の足で歩けるようになれば、大仏の前や桜や梅が咲き誇る公園、日の出を迎えた海岸と、運気が上がりそうな場所に出かけて行って写真を撮っている。
晴れやかでおめでたいカットがずらりと並んで、こちらの表情も知らずほころんでしまう。無数の縁起物のおかげもあってか、
「すくすく育って何よりだ……」
と、いつしかまるで親戚であるかのような気分に。気づけば被写体の子と、ものすごく距離を縮めている自分がそこにいるのだった。
2020.10.07(水)
文=山内 宏泰