写真が人と人の距離を、ぐっと近づける
浅田政志は三重県津市の出身。大阪の写真学校を卒業したあと、東京へ出て写真家として独立した。2009年には「写真界の芥川賞」などとも言われる木村伊兵衛写真賞を受賞する。このときの受賞作が『浅田家』だった。
自身の家族の協力を得て、消防隊やラーメン店員、サーキットレーサーに動物園飼育員と、さまざまなシチュエーションになりきった家族写真である。
眺めているだけで思わず笑ってしまう写真は、幅広い支持を得た。その後の浅田は自分の家族、よその家族を問わずカメラを向けながら、家族写真の在り方について考え続けている。
「浅田家」シリーズも着々と撮り続けられて、現在にまで至る。みずからの出世作にしてライフワークとも言えるこの作品をやってきてよかったことは? 以前にそう問われた浅田は、
少しだけ家族との距離が近くなった気がする、だからよかった。
と答えていた。なるほど「浅田家」しかり、今展の赤ちゃん写真もそうだが、浅田政志は写真という道具を、人と人との距離をはかったり近づけたりするものとして活用しながら、作品をつくっているのである。
会場では、「まんねん」と名付けられた我が子の写真シリーズと併せて、実父をモデルにして遺影写真をあれこれ工夫して撮り続けた作品シリーズ「せんねん」も観られる。
身近にあるけれど、改めて考えてみると不思議で、かつとことん愛おしい存在。そんな家族写真、および家族のことをじっくり考え直してみる機会を、浅田作品は与えてくれる。会場奥にはラグジュアリーな椅子が置かれた撮影スポットもあり。ともに来た人と写真に収まってみれば、互いの距離に何かしら変化が訪れるかも。
2020.10.07(水)
文=山内 宏泰