東日本大震災の被災地に建てられたコンテナ多層仮設住宅も

紙のログハウス Photo by Hiroyuki Hirai

 今回の展覧会では、坂が開発してきた新しい建築資材や手法、そして災害支援の両面から、その活動の全貌を紹介する。通常、建築展というと模型やドローイング、CGなどの展示が主になりがちで、一般の観客には実際の建物、空間のイメージを思い描くのが難しいものだが、そこは熟練した技術を要さず、誰でも簡単に設置できる仮設建築を模索してきた坂らしく、と言うべきか、阪神淡路大震災の際に仮設住宅として設計され、トルコやインドでも現地の気候や生活様式に合わせて改良を加えられてきた《紙のログハウス》の実物を展示する。

間仕切り設置完了風景(大槌高校大体育館) (C) Voluntary Architects' Network

 また体育館などの大きな空間で、避難生活を強いられる避難者がプライバシーを確保できるようにと設計され、間もなく発災から丸2年が経とうとしている東日本大震災に際して、約50カ所に1800ユニット以上を設置することになった《災害避難所用パーテーションシステム》の実物も出展される。さらに、東日本大震災で被災、平地が少なく、十分な数の仮設住宅を建設できずにいた女川町のために設計された、海上輸送用のコンテナを使った仮設住宅のモックアップ(実物大の模型、あるいは実物に近い大きさで再現された模型のこと)1世帯分が美術館敷地内に屋外展示される。

左:コンテナ多層仮設住宅 - 宮城県女川町 (C) Voluntary Architects’ Network + Shigeru Ban Architects
右:コンテナ多層仮設住宅 - 宮城県女川町(内観) (C) Voluntary Architects’ Network + Shigeru Ban Architects Photo by Hiroyuki Hirai

 一方、《ポンピドゥーセンター・メス》のモックアップ、そして現在建築が進むスイス・チューリッヒのオフィスビル《Tamediaオフィスビル》のモックアップでは、木造による美しい構造体の組み木の技術を、実際の素材で再現するなど、坂の描く建築のイメージがリアルに伝わる、印象的な構成となっている。

坂茂 建築の考え方と作り方
会場 水戸芸術館現代美術ギャラリー+水戸芸術館敷地内
会期 3月2日~5月12日
休館日 月曜日(ただし4月29日、5月6日は開館、翌4月30日、5月7日は閉館)
開館時間 9:30~18:00(入場は17:30まで)
料金 一般800円
問い合わせ先 029-227-8111

橋本麻里

橋本麻里(はしもと まり)
日本美術を主な領域とするライター、エディター。明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。近著に幻冬舎新書『日本の国宝100』。共著に『恋する春画』(とんぼの本、新潮社)。

Column

橋本麻里の「この美術展を見逃すな!」

古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。

2013.02.23(土)