調味料入れでわかること

 僕が重視する点のひとつは「調味料入れ」です。

 レストランならテーブルに敷かれたクロスに汚れやシワがない、町の食堂や居酒屋などであればテーブルやカウンターがきれいに拭かれている。

 これは当たり前として、さらにレストランではカトラリーが真っ直ぐに置かれているとか、和食では器の模様が季節に合っているとか、ディテールも重要です。すぐに気付かないかもしれませんが、ちょっとしたことで居心地は変わるのです。

 同様に、食堂や町中華などで気になるのが調味料入れ。結論から言うと、こうした調味料入れが少ないほどいい店、そして小さくてきれいであればいい店である確率が高いのです。

 調味料が多いということは、客が好みの味に調整したり、味変する要望に幅広く応えているように思えますが、逆に言えば「この味を食べてほしい」という思いが弱いということです。

 たとえば、ラーメン屋には餃子もありますから、胡椒、酢、辣油、醬油はあってもいいのですが、塩、にんにく、胡麻、からしなどまで置いてあると、この店の味は大丈夫か、と思ってしまいます。 

 調味料は必要最小限、極端にいえばテーブルの上に何もないのが理想です。たとえば、浅草の洋食「グリルグランド」に行くとテーブルの上には箸しか置いてありません。注文すると、料理ごとにそれに合わせたカトラリーや調味料が出てきます。

 最初からフォークナイフやソースなどを置いておけば店にとっては手間がかからず楽なのですが、客に合わせた丁寧なサービスをするという店の姿勢が表れているのです。

 もちろん、忙しい店で人手が足りなければ、そこまでできないかもしれません。ただ、それでも調味料入れを常にきれいにしておく、中身をいっぱいにしておく、ということはできるはずです。

 東京・神保町に「さぼうる2」というナポリタンが有名な喫茶店があり(僕もこのナポリタンは大好きです)、かつて取材で開店前に訪れたことがあります。

 ふと見ると、アルバイトの男子がタバスコの瓶の口の辺りを、爪楊枝で丁寧に掃除していました。

 「タバスコの瓶まで掃除するんですね」と話しかけると、「毎日開店前にやります。汚れていたらお客様も嫌ですよね」。

 タバスコの瓶の汚れまできれいにしている店は客や料理などすべてに気配りができると思います。しかも、その気持ちがアルバイトにも伝わっている店は素晴らしいと思いました。

 細かいことですが、調味料入れが小さい店は気配りが行き届いていることが多いですね。入れ物が小さいということは、中身がなくなりやすいので、常に気にしていなければならない。

 それに、調味料も長く入れておくと酸化してしまいます。小さい容器でこまめに入れたほうが風味を保てるということにもなります。

 調味料入れを見ただけでも、店の姿勢や気配りがわかるのです。

dancyu“食いしん坊”編集長の 極上ひとりメシ

著 植野広生

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植野広生(うえの こうせい)

1962年栃木県生まれ。法政大学法学部に入学と同時に、銀座のグランドキャバレーで黒服のアルバイトを始め、鰻屋、喫茶店など多数の飲食店でアルバイトを経験。卒業後、新聞記者、経済誌の編集担当を経て、2001年プレジデント社に入社。以来、食の月刊誌「dancyu」の編集を担当し、2017年より編集長に就任。趣味は料理と音楽と言葉遊び。「和牛の町×ごはん」(BS日テレ)にレギュラー出演ほか、「世界一受けたい授業」「アナザースカイ」(日本テレビ系)、「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK)、「情熱大陸」(毎日放送)などメディアにも登場、最強の“食いしん坊”ぶりを発揮。いまだに「大きくなったら何になろう」と考えている。
dancyu公式ホームページ http://dancyu.jp/

2020.07.27(月)
文=植野広生