■Q2 店を開くための「権利金」って何?

 セロイが梨泰院に開店した「タンバム」は、客が増えてきた矢先に移転の危機を迎える。入居していたビルのオーナーが賃貸料の引き上げを求めると同時に、契約期間が終わり次第、別のオーナーがビルを買い取って店を直接経営することになった、と言い出したからだ。

 ビルの持ち主が店を「直接経営したい」という話に、「タンバム」のマネージャーを務めるヒロイン、チョ・イソ(キム・ダミ)は「権利金をせしめようという魂胆ね」と怒る。日本人には馴染みのない「権利金」とは、どんなものなのか?

 韓国でいう「権利金」とは、店舗を賃貸する場合、契約金とは別途に、前に入居していたテナントに支払う一種の営業権だ。もともとは同じ業種の店がそのまま入る場合に支払う「のれん代」のような性格があったが、いつからか人気のある商圏では、業種に関係なくこの権利金を払わされるようになった。例えば焼肉店だった店舗で、居酒屋をやろうが美容院をやろうが権利金を支払わなければならない。

 ただ、セロイの店のように、建物のオーナーが直接店を経営するとなると、元の賃借人は権利金を受け取れず、追い出されることになる。かつて、ある芸能人が、自分のビルから繁盛している焼肉店を権利金も払わず追い出して、自分が店を開いたことで、大きな非難を受けたことがあるほど、韓国では敏感かつよく話題に上る問題だ。

 梨泰院に暮らすスアは、「梨泰院は権利金がソウルでも最も高い場所で、最低2億ウォン(約1700万円)はする」と口にする。ただ、ドラマではソウルで最も商売が繁盛している場所として描写された梨泰院も今や空テナントが増え、権利金という慣習も消えつつあるという。

 公共機関である韓国鑑定院によると、2019年第4四半期の梨泰院の中大型商店の空室率は26.4%で、ソウルの主な商圏の中で最も高い。理由としては、いま米軍米軍基地の機能が、ソウルから南に80キロ離れた平沢(ピョンテク)に移転する計画があることが挙げられる。

 さらに、急激な賃貸料の上昇や駐車スペースの不足などで、梨泰院を離れる良質のテナントが増えているためだ。
 

2020.07.21(火)
文=金 敬哲