いまいる場所とはまったく違う、もうひとつの心の拠り所を持つことで、人生はより豊かに広がっていきます。

 そこでおすすめしたいのが、心のふるさとを探す旅。

 岩手県最北の地「二戸(にのへ)」には、厳しくも豊かな自然に沿った人の暮らしがあり、温泉があり、食や酒、工芸など世界に誇れる文化が息づいています。

 まるで秘境のごとくなスポットだからこそ、ここにしかない“本物”を見つける喜びがあります。


幸運を呼ぶ座敷わらしに会える!? 金田一温泉郷を訪ねて

 岩手県最北の地・二戸の東北端に位置する「金田一温泉」。300年以上前の寛永3年(1626年)のある日、田んぼのなかから突然湧き出したと伝えられています。

 江戸時代は、南部藩の指定湯治場だったことから、「侍の湯」と呼ばれ親しまれてきました。古くから農業を営む地元の人たちも湯に浸かりに来ていたといい、昔も今も、人々の暮らしに根ざした温泉です。

 現在使用されている源泉は4つあり、泉質は微量の放射線を含む、低張性弱アルカリ単純泉。肌当たりが優しく、すべすべした質感の湯です。

 一帯には6つの温泉宿が点在しており、今回訪ねたのは、座敷わらし伝説の宿「緑風荘」。ちなみに温泉郷全体が「座敷わらしの里」として知られています。

 座敷わらしとは、古くから南部藩を中心に伝わる子供の姿をしている精霊のような存在で、住みついた家や、目撃した人に幸運をもたらすと伝えられています。

 「緑風荘」には、亀麿(かめまろ)という座敷わらしが現れるといわれ、幸運を求めて全国から宿泊客が訪れます。

 座敷わらしを見た、不思議な体験をしたというたくさんの体験談が語り継がれており、緑風荘の庭には亀麿を祀る神社もあります。

 金田一温泉郷のほとんどの宿は日帰り入浴可。座敷わらしがヒョイッと飛び出てきても不思議ではない、のどかな里の風景を楽しみながら、湯巡りするのもおすすめです。

2020.06.21(日)
文=伊藤由起
取材協力=岩手県二戸市産業振興部商工観光流通課