世界文化遺産に登録された熊本県天草には、自然もグルメも、旅をしたくなる要素がいっぱい。その魅力を2回にわたってお届けします。

» 第2回「独特のカルチャーに浸る天草スポット」を見る(5/6公開)


西海岸に自生する 美しい椿の森へ

 青のグラデーションを描く海や、豊かな緑、キリシタン文化が息づく集落、新鮮なシーフードをはじめとする極上のグルメに温泉。

 九州南西部にある熊本県天草は、旅をしたくなる要素がぎっしり詰まった宝の島だ。

 天草は大小120あまりの島々からなる。

 島といっても、九州本土と5つの橋で繋がり車やバスでアクセスできるうえ、熊本や福岡からは飛行機で約20~30分と、移動はとてもスムーズだ。

 めざしたのは、下島の西海岸。断崖の上に広がる西平(にしびら)椿公園に到着すると、海と森が織りなす絶景に迎えられる。

 深い青、うっそうとした緑、降り注ぐ太陽! まばゆいばかりの色彩は、いかにも南の島らしい。

 青い海との鮮烈なコントラストを描くのは、約2万本ものヤブ椿。

 樹齢100年を超える大木が、夏は豊かに葉を茂らせ、秋はみごとな実をつけ、冬に深紅の花を咲かせ、いつ訪れても、心を癒やしてくれる。

 この絶景のほかにもうひとつ、椿がもたらすものがある。それは、「天草椿油」。

 椿油といえば、皮脂と同じ成分を多く含むため肌に馴染みやすく、乾燥や紫外線からも守ってくれる万能コスメ。

 さらに西平の椿はすべて自生で、除草剤も農薬もいっさい使われていないから、ここで作られる椿油は完全オーガニックだ。

 天草椿油が生まれるのは、森の一角にある可愛らしい工房。地元の人々で結成する「西平カメリアクラブ」が、約30年もの間、ここで椿油を作り続けている。

 大木に登って実を摘み、実から種を取り、油を搾って濾過し、不純物の除去、油の瓶詰めに至るまで、工程はすべて手作業。しかも、スタッフはわずか約10人という、少数精鋭の部隊だ。

 これほどの椿が自生していても、椿油になるのは、摘んだ実のわずか約23パーセント。

 その希少性もさることながら、「使ってみたいな」と思わせるのは、作り手の真心がたっぷりと込められているから。

 「汗だくで実を摘むのも、みんなで集まって作業をするのも、幸せなこと。ここは都会のようにモノは豊富ではないけれど、椿がさまざまな恵みをもたらしてくれるんです」と話すのは、「西平カメリアクラブ」の会長、白迫修一さん。

 日焼けした顔に優しさがにじむ白迫さんとお話をしていると、この森の豊かさを実感する。

 自然に寄り添い、丹精を込めて地元の人々が手作りする天草椿油。

 フェイスやネイル、ボディのケアに安心して使えるのはもちろんのこと、オリーブオイル感覚で料理に使ってもおいしい。優しく、まっすぐな椿油は、お肌も心も、元気にしてくれる。

天草椿

所在地 熊本県天草市天草町大江4126
電話番号 080-5282-4126
http://amakusatsubaki.com/
   

2020.05.04(月)
文=芹澤和美
撮影=鈴木七絵