著者・須賀しのぶさんにインタビュー

KADOKAWA 1,700円。
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今月のオススメ本
『荒城に白百合ありて』

 幕末の江戸、不意に訪れた「世界の終わり」で、出会うはずのない二人が出会った。あなたはなぜ私を助けてしまったの──。

 ラストシーン直前から始まり、時計の針がぐるっと巻き戻り出会いからリスタートする構成は、二人の定められた運命の存在を強調し、情念の炎を高めている。

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 尊王攘夷思想が渦巻き始めた幕末の江戸で、会津藩士の一人娘・鏡子と、薩摩藩士の伊織が出会う。

 深い思弁を持ちながらも「女だから」と全てを飲み込んで生きる少女と、ふとした偶然から彼女の本性を目の当たりにして、自身の心を共鳴させる青年。

 須賀しのぶの長篇小説『荒城に白百合ありて』は、二人の運命の行く末を追いかける。

「幕末という時代は今と比べ物にならないほど、生まれた土地や家によって、生き方が絶対的に決定されていました。二人はそのことに違和感や疑問を抱きながらも、現実を受け入れて生きていた。

 でも、出会ってしまった。男女という組み合わせなので、二人の関係は恋愛に近いものとして見えるかもしれませんが、相手の中に、自分の本当の姿を見出してしまった人間同士の物語なんです。

 出会わない方がむしろ、幸せだったのかもしれないんですよね。運命の出会いを描く物語にはたいてい破滅がもたらされる理由が、書いてみて分かった気がしました」

 二人の運命には、時代の流れも絡み合う。歴史が明らかにしているように、かつて蜜月の期間があったにもかかわらず、明治維新後に会津は幕府側につき敗者となり、薩摩は天皇側について勝者となった。

 二人が離れ離れになることは、必然だった。

「私は後世の人間ですから、歴史で何が起こったのかは分かっています。でも、真っ只中にいる当時の人たちは、分からない。

 二人の選択に“その先は滅びる道しかないんだよ!”と思って、なんとか希望ある道がないか探すんですけど……。もう胃痛との戦いでした(苦笑)」

 実は、本人たちも「間違った選択」であることに気付いている場面は多いのだ。にもかかわらず、選ぶべき道が選べない。須賀しのぶの筆は、その瞬間を濃密に記録する。

「歴史ものって、登場人物たちが時代だとか周囲の環境によって流されていく姿を書いているのかもしれない、と思うことがあります。

 自分の人生は常に自分の意思で選択してきたと言う人でも、一歩引いた視点から見てみると、流されているんですよね。決してそれは悪いことではないんですよ。

 ただ、“流されているんじゃないか?”と感じられるようになることは、現代を生きる私たちにとっても大事なんじゃないかなと思うんです」

 ラストシーンは「この二人にはこれしかない、と確信を抱いて書きました」。

 無限の選択肢から選び出された幕切れを、胸に焼き付けたい。

須賀しのぶ(すが しのぶ)

1972年、埼玉県生まれ。上智大学卒。94年、『惑星童話』でコバルト・ノベル大賞の読者大賞を受賞しデビュー。2017年『また、桜の国で』で第4回高校生直木賞を受賞。『革命前夜』『紺碧の果てを見よ』など著書多数。

Column

BOOKS INTERVIEW 本の本音

純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!

2020.02.02(日)
文=吉田大助

CREA 2020年2・3月合併号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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