③仁左衛門さんが表現する
愛されキャラの “ぼんぼん”

 『廓文章 吉田屋』は仁左衛門さんの家である「松嶋屋」にとって、とても大切な作品です。伊左衛門を初めて演じたときには父である十三代目片岡仁左衛門から指導を受け、以来、再演を重ねてきました。

 「父が演じていた伊左衛門は祖父の創ったものに父がさらに工夫して創り上げたもので、私の伊左衛門も、父が演じたものを踏襲していますが、時代とともに変わってきていて、父以上に“ぼんぼん”の可愛さというものを出して演じています。母性本能をくすぐるような幼さがないと成立しない役なんです」と語る仁左衛門さん。

 “ぼんぼん”とは関西の方言で、良家のおぼっちゃまのこと。ぼんぼんは、夕霧の姿見たさに千畳敷の座敷を小走りして、その姿を見ると嬉しさのあまりに炬燵の上に座る様子などはとてもキュートです。

 上方の風情が漂う伊左衛門というキャラクターを見事に演じる仁左衛門さんの表情や動きに注目していただきたいです。

④玉三郎さんが体現する
廓界の美しき大スター

 舞台映えする大きなべっこうの簪が何本も刺さった大きな鬘と豪華絢爛な衣裳は併せて約30キログラム!

 玉三郎さんが演じる夕霧は、最上位の遊女である太夫の品格や艶やかさが求められる大役で、そんな衣裳の重さも感じさせない優美な動きには、目が釘付けになります。

 衣裳へのこだわりも半端ない玉三郎さんが纏う裲襠(うちかけ)も見どころの一つ。色や豪華な刺繍などをじっくりとご覧ください。

⑤お正月の雰囲気を味わえる
お目出度い結末

 伊左衛門は実家から勘当されていたために、紙衣というみすぼらしい姿で吉田屋に訪れていたのですが、ラストシーンでは実家の藤屋から伊左衛門と夕霧の関係が認められて、身請け金として千両箱が届きます。

 床飾りに繭玉など、お正月の飾りがなされた座敷は“めでたし、めでたし”のお祝いムードに包まれます。

 美しき伊左衛門と夕霧とともに幸福感に満たされるお正月にぴったりの作品です。

シネマ歌舞伎『廓文章 吉田屋』

2020年1月3日(金)より全国公開
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/43/

2020.01.03(金)
文=山下シオン