腸を健やかにする
短鎖脂肪酸

「便秘に悩まされて来院される女性の話を聞くと、高校時代から便秘になり、市販の便秘薬が段々と効きづらくなったという人が多い。女性は、女性ホルモンの影響もあり、便秘になりやすいのです」

 長い間、便秘薬を使用している人の腸は、黒く色素沈着しているという。

「ヒトの腸内には、約1,000種類、100兆個の腸内細菌が棲んでいますが、腸内細菌の集合を叢(くさむら)にたとえ腸内フローラと呼ばれています」

 腸内フローラのバランスが悪化することで起こる症状が、下痢や便秘、肥満、肌荒れなどだ。

「ヒトの腸内フローラは、出産時に産道を通り抜けながら口や鼻を通じて乳酸菌を体内に取り込み、そのまま常在菌として定着します。

 それぞれのお母さんから受け継がれた腸内細菌叢は、自然分娩や帝王切開など分娩の状態や、母乳の有無、さらにその後の環境や生活習慣などから、個々人で変化していきます」

 腸内フローラは、百人百様だ。

 内藤裕二先生は、京丹後市で、祖父母からお孫さん世代まで3世代の腸内フローラを調査したが、世代が若くなるにつれ腸内フローラの状態は悪くなっているという。

 悪化させてしまった腸内フローラは、リカバリーできるもの?

「できます。当たり前のことですが、自分の腸内フローラを育てる食生活をすることです。そのためには、腸内フローラのエサになる食物繊維を日常的に摂ること。

 栄養学では、消化→吸収→排泄(代謝)という考え方ですが、消化、吸収の間に、摂った食物が腸内細菌で発酵し、酪酸や酢酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸が産生されるプロセスがあります。

 短鎖脂肪酸の分泌が活発になると、腸内が弱酸性となり、良い菌が棲みやすい環境になるのです」

 ここで大切なのは、食物繊維といっても水溶性食物繊維を摂ること。1週間摂り続けたことで、腸内のビフィズス菌が増えたという報告もある。

「この場合は、短鎖脂肪酸の働きにより、自分の力で腸内環境を改善できたのです。反対に、腸内が中性から弱アルカリ性になると悪い菌が増殖します」

 この短鎖脂肪酸の中でも注目されているのが酪酸の働きだ。

「腸の上皮細胞のエネルギー源となって、腸の細胞を増やし、強くしてくれています。不足すると、体の免疫機能にも影響が出る場合があります」

 現代の日本は白米や食パンなどが主食。欧米に比べ、大麦などの穀物を食べていないので、食物繊維不足は深刻だと話す内藤先生。

「検討中の『日本人の食事摂取基準(2020年版)』でも、目標量という扱いになっています。まずはいつもの食事にプラス5グラムの水溶性食物繊維を心がけてほしい」

 内藤先生の朝食は、スムージー。バナナや青汁、はちみつなどに加え、グアー豆からつくられた水溶性食物繊維のサプリメントをプラスする工夫を実践している。

「神経伝達物質のセロトニンとドーパミンは、精神の安定や喜びに関わる幸せホルモンとも呼ばれていますが、そのもとになる物質(前駆体)は、腸内フローラがつくり脳に送り届けています。

 腸内フローラを活性化させると、こころも元気になるのです」

2019.07.23(火)
Text=Kaoko Saga(Lasant)

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