首都高横羽線の
夜明けの情景が浮かぶ

『COBALT HOUR』(75)。エアブラシならではのタッチが印象的なジャケット画を描いたのは、ペーター佐藤。
『COBALT HOUR』(75)。エアブラシならではのタッチが印象的なジャケット画を描いたのは、ペーター佐藤。

 レコードに針を落として、また驚きました。タイトル曲からは、首都高横羽線の夜明けの情景がバーッと目に浮かぶ。スモッグだらけだった当時の京浜工業地帯を、「白いベレG」、つまりいすゞのベレット1600GTが駆け抜けていく鮮烈なイメージ。

 この衝撃的な曲は、2002年にリリースされた『Queen's Fellows: yuming 30th anniversary cover album』で、僕らクレイジーケンバンドがカバーすることになります。

 誰もが知る名曲「卒業写真」は、その『Queen's Fellows』と連動する形で2003年に日本武道館で行われた、ユーミンのデビュー30周年を祝うトリビュートコンサートの舞台で、僕らがカバーを披露しました。

 そして、先行シングルとしてリリースされた「ルージュの伝言」も素晴らしい。

 この曲、一歩間違えば、詰めの甘い、オールディーズのダサい模倣みたいになりかねないのですが、さすがはユーミン。絶妙なセンスによって、フレンチ視線のアメリカ観というか、言ってみれば、セルジュ・ゲンズブールが体現していた感覚に一致するんですね。

 彼が好んで吸ったマールボロしかり、歌の題材として取り上げたフォード・ムスタングしかり、アメリカの無骨なカルチャーが、海を隔てたヨーロッパのフィルターによって濾過され、洗練される。

 「雨のステイション」は、JR青梅線の西立川駅を歌った曲。すごく心地よいんだけど、シティポップという安易なレッテル貼りには収まらない、ロック的な感覚があふれ出す。

 「少しだけ片想い」には、山下達郎さんがコーラスで参加しています。

 とにかくこのアルバム、クレジットに目を通すと、現在では大御所となった錚々たる名前ばかりが並んでいる。

 そもそもこの作品は、ティン・パン・アレーというバンドがバックを支えています。すなわち、細野晴臣、鈴木茂、林立夫、松任谷正隆の4人組。細野晴臣さんのベースは、特に神がかってますよね。バッファロー・スプリングフィールドを思わせるこのクオリティーは、まさにミラクル。

 なのに、演奏している本人たちは割と飄々としていて、体温が低い。そこがまた過激なまでに都会的なんですよ。

 『COBALT HOUR』、最高のアルバムです。

横山剣 (よこやま けん)

1960年生まれ。横浜出身。81年にクールスR.C.のヴォーカリストとしてデビュー。その後、ダックテイルズ、ZAZOUなど、さまざまなバンド遍歴を経て、97年にクレイジーケンバンドを発足させる。和田アキ子、TOKIO、グループ魂など、他のアーティストへの楽曲提供も多い。2018年にはデビュー20周年を迎え、3年ぶりとなるオリジナルアルバム『GOING TO A GO-GO』をリリースした。
●クレイジーケンバンド公式サイト http://www.crazykenband.com/

Column

横山剣の「俺の好きな女」

東洋一のサウンド・マシーン、クレイジーケンバンドを率いる横山剣さん。その常人の域を超えた旺盛なクリエイティヴィティにインスピレーションを与える源泉のひとつが、魅力的な女性たちの存在。これまでの人生で恋し憧れてきた、古今東西の素敵な女性について熱く語ります!

2018.10.25(木)
構成=下井草 秀(文化デリック)