若手デザイナーへとつながる日本ファッションのDNA

「平面性」をテーマとする第2部は、ヨーロッパで育まれてきた身体の立体性に忠実な、あるいは服が形づくる過剰なフォルムに身体の方を無理にでも合わせる、いわば「彫刻的」な服とはまったく違う、平面から発想する服の世界を紹介する。日本独自の着物に特徴的な平面的な構造を自由に操り、現代の服へ昇華させた三宅一生の「プリーツ・プリーズ」や、ミントデザインズなどの作品を、マネキンに着せるだけでなく、天井から吊り下げたり壁に貼るなどして、二次元の存在が人間の身体を媒介として三次元へと変化するデザインの特徴を効果的に演出している。

左:ミントデザインズ 2012年「アーカイブスドレス」 (C) mintdesigns
右:サカイ/阿部千登勢 2012年春夏 (C) sacai

 第3部の「伝統と革新」は、先端テクノロジーによって新しい表情や質感、機能を獲得した新素材が切り拓く、これまでにない服の可能性を追求したパート。19世紀ヨーロッパなら、クジラのヒゲを輪状に重ねた骨組み状の下着「クリノリン」でスカートを膨らませたものだが、ジュンヤ ワタナベのドレスは蜂の巣構造のようなテクノ・クチュールを使うことによって見たこともないエレガントなボリュームを持ち、ソマルタによる無縫製の特殊ニット「スキンシリーズ」は、身体の外側に殻のような服をまとうのではなく、タトゥーのように身体を覆って、身体とファッションの関係に再考を迫る。

津村耕佑「ファイナル・ホーム」 2012年
ミナ・ペルホネン 2005年「forest parade」 (C) min&auml perhonen

 こうした海外展の内容に加え、今展では第4部として「日常にひそむ物語」というセクションを新たに設け、今後の方向性を示唆する若手デザイナーの作品を取り上げた。食べる、眠る、友人とおしゃべりをするといった「日々の行為」をもとにした「共感」をデザインのコンセプトにする、あるいはメディアや購買形態の変化に従って、定期的なショーの開催や東京からの発信という、従来のファッションの枠組みを超えた活動に挑戦するなど、一見して目を驚かせる新奇な造形でなくとも、激変するファッションの世界に新しい答を見出そうとする若手デザイナーたちの試みが提示された。

左:ハトラ 2011年秋冬 photographer:Maki Taguchi, stylist:Sota Yamaguchi, model:Shohei Yamashita
右:ミキオサカベ/坂部三樹郎、シュエ・ジェンファン 2011年秋冬 (C) 株式会社ミキオサカベ

 やがてその展示も終わろうという場所へ差しかかると、第1部の冒頭で観客に、そしてかつて世界に衝撃を与えたコム デ ギャルソン、ヨウジヤマモトの服をまとったマネキンが見えてくる。そこから始まり、現在まで確かにつながっている日本ファッションのDNAを感じさせる構成は、展示デザインを担当した藤本が言う、「全部がループしてつながっていくような体験」を心底実感させる、見事な幕切れだ。

「Future Beauty 日本ファッションの未来性」
会期 7月28日(土)~10月8日(月・祝)
会場 東京都現代美術館 企画展示室3階
休館日 月曜日(ただし9/17、10/1、8は開館、9/18は休館)
開館時間 10:00~18:00(入場は17:30まで)
問い合わせ 03-5777-8600(ハローダイヤル)
URL www.mot-art-museum.jp

Column

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古今東西の仏像、茶道具から、油絵、写真、マンガまで。ライターの橋本麻里さんが女子的目線で選んだ必見の美術展を愛情いっぱいで紹介します。 「なるほど、そういうことだったのか!」「面白い!」と行きたくなること請け合いです。

2012.08.11(土)