JR姫路駅から播但線に乗って約20分。溝口駅で降りて8分程歩くと、住宅街に「大塚香作所」の看板を発見。工作所ではありません。ここは、薪窯でバームクーヘンを焼く「香作所」なのです。

民家の入口を入って右側奥が、直売所&カフェ。
バームクーヘンを焼く自作の窯の前に立つ大塚寿人さん。

 2017年11月3日にオープンした直売所&カフェの営業は、金・土・日曜のみ。11時開店、17時オーダーストップですが、完売したら閉店。「イベント出店のためお休みとなる日もあります。そして、6月から8月は休業」と店主・大塚寿人さん。

 というのも、大塚さんは、焚火のように薪を燃やして、手作業でバームクーヘンを焼いているのです。「1日2本、28個分を焼くのがやっと。焼き上げるまでずっとつきっきりなんですよ」。夏は熱くて、暑くて、作業ができないのだそう。

左:目印の外看板。
右:直売所&カフェの入口。
柔らかな光が差し込む1階。

 大塚さんは、1981年、姫路市生まれ。製菓専門学校を卒業後、ベーキングパウダー、重曹などの膨張剤や香料を一切使用していない奈良県の洋菓子店で5年修業。さらに、5年間、自然豊かな空気をたっぷり含んだお菓子がテーマのお店などで経験を積みます。長野で暮らし、作物を栽培したり、石窯で料理や燻製を手作りしたりも。

 地元へ戻って「田舎でやるなら、ちょっと変わったことをして、都会から買いに来てもらおう」と、焚火バームクーヘンにトライ。「ちゃんと焼き始めたのは2015年秋から。最初は近隣のイベントに出店して少しずつ販売していました」とにっこり。バームクーヘンだけでなく、こだわりのお菓子と飲み物を出す念願のカフェは、自分で納屋を改装してオープン。噂を聞きつけ、遠方からわざわざ訪れる人も多いのだとか。

左:1階のカウンターは5席。
右:「タダムギ香ルサブレ」200円。

 大塚さんがバームクーヘンを焼くのは、カフェの休業日。

「材料は、基本、卵とバター、小麦粉と砂糖。蜂蜜、アーモンドプードルも加えています。とても繊細な生地で、作るのに2時間弱かかる。そして1本焼くのにも2時間弱かかります。毎回、火加減が変わるから、きれいに焼き上げるのはとても難しい」

 あと最後の1層で焼き上がるという段階で、ダメになることもあるのだそう。

「焚火バームクーヘン」1,400円。

 焚火バームクーヘンの魅力は、なんといっても煙のほのかな香り。「薪の乾燥具合で煙の出方が変わる。程よく薫香をつけるのも難しいんです」と大塚さんは言います。

ひとつずつ手焼きされる「焚火バームクーヘン」。

 「焚火バームクーヘン」を袋から出すとふわっとスモークの香りが立ち上ります。そして、食べた後、口の中に、ほのかに煙の香りが残っていて、印象的。

 そのままでもおいしいのですが、4センチ程の厚みでカットして、フライパンで軽く表面を焼くのが、おすすめの食べ方。まわりにかけてあるみりんを使ったナパージュが溶けて、こんがり香ばしくなり、どこか懐かしい甘みもプラスされます。

カフェメニュー「焚火バームクーヘンプレート」400円と「Hotコーヒー」400円。

 カフェで出されるプレートには、そんな厚切りと1~2ミリの薄切りが一緒に盛られており、食べ比べができます。

 外はカリッと香ばしく、中はしっとり。優しい風味です。薄切りは軽やかな歯触りで、優雅な口溶け。そんな食感のコントラストに、薪、木の香りがほんのりと加わるのです。バウム=木。これぞ、バームクーヘン。添えてあるカカオ豆を一緒に食べると、スモークの香りがさらに引き立ち、感動。

 合わせるのは、姫路市野里のスペシャルティコーヒーのみを扱う「NAKAZAKI COFFEE ROASTER」のインドネシア産オーガニックコーヒー。ピュアでナチュラルな風味とそのハーモニーに、ほっこり癒されます。ドリンクは他にも、奈良・月ヶ瀬のオーガニック紅茶や愛媛県・希望の島の無添加のみかんジュースなど、厳選されたものばかり。お菓子との相性も抜群です。

2018.03.11(日)
文・撮影=そおだよおこ