紅白で大御所が同じヒット曲を
「繰り返し歌う」意味とは?

「シクラメンのかほり」(1975年)。感情が溢れ出すような布施明の歌唱も素晴らしいが、独り言のような寂しさを感じる小椋桂バージョンも味わい深い。

 話がそれてしまったが、とにかく布施明の再出場を待ちたい。本当になんで卒業宣言なんてしちゃったのかなあと改めて調べてみると、あらやだ! 希望の光にも取れる「ひとこと」を見つけたのである。

 「同じ曲になってしまうし、名前だけで出るのはやめようと。次に譲っていかないと」とは言うものの、「また出られるように僕も頑張ります」と前向きなコメントを残しているではないか! もしかしたら今年あたり出場しシンガソンしてくれるかもしれないッ。

1987年撮影の布施明。この2年後オリビア・ハッセーと離婚。

 そもそも「同じ曲になってしまうし」と悩まなくてもいい、布施明!

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 いまや紅白は、一昔前のような「その年の大ヒット曲だけが選ばれる」祭典ではなくなっている。名曲を後世に伝えるという重要な任務もあり、大御所の「同じ曲で繰り返し出演」は、それを果たしているのである!

 なので視聴者も「えーまたこの人同じ歌~」などとツッコむなど無粋。歌われ続けるにはワケがある。

 「この曲聞かないと今年も終わった気がしないわー」「アラ今年は津軽海峡!」「おや今年はズンドコ!」と身を乗り出す母父爺婆勢の笑顔やシミジミ思い出話など込みで、若い世代がその曲の素晴らしさやパワーを再確認できる。

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 逆に、シニア世代は子どもや孫に「エエッSEKAI NO OWARIってバンドの名前?」などと驚きながら、若い世代の曲を初めて知りもする。家族が一カ所に集まりやすい大晦日だからこそ叶う、ナイスかつハッピーな異世代交流だと思うのだ。

 アーティスト側も飽きられないよう演出やアレンジを工夫する。昨年の石川さゆりの「津軽海峡・冬景色」のピアノなんてカッコよすぎて時が止まったぞ! 歌は生き物、歌い続けることでどんどん成長していく。そして、家族や仲間との会話や思い出話のスイッチになる。

新旧の布施明夫人。1980年から89年まで夫婦だったオリビア・ハッセー(左)と、2013年に結婚した森川由加里(右)。

 だから現在出場中の大御所たちは卒業なんて絶対考えてはいけない。いや、紅白というコンテンツそのものに見切りをつけたというなら悲しいが諦めよう。

 が、もし「若い人に枠を譲りたい」なんて思ってるなら、ちょっと待ってーッ。力のあるアーティストは譲らなくても遠慮なく枠をぶん取っていくんだからお気遣い無用。だから、

「潰すつもりで来てください。私は何時でも待っています」

 そんなAKB48選抜総選挙での篠田麻里子イズムで堂々と居座ってほしいのだ。布施明さんも、ぜひぜひ復活し、大晦日の夜、再び薔薇より美しいその歌声を響かせていただきたい。

 お待ちしています!

田中 稲(たなか いね)
大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。現在は「関西ウォーカー」で“Kansai Walkerで振り返る! 00年代の関西”連載中。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

Column

田中稲の勝手に再ブーム

80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。

2018.01.28(日)
文=田中 稲
写真=文藝春秋