宮崎の食文化の豊かさを味わう

 ウエルカムドリンクは、雄大な景色の中で振る舞われた。

干潮時に現れる波状岩。この日の為だけのカウンターが誕生。
ウエルカムドリンクは日向夏とハーブを使った爽やかなカクテル。

 ウエルカムドリンクのあとは、島の西側に移動。刻々と変わる空の色で時間の流れを知る、屋外レストランに到着した。BGMは島をぐるりとかこむ波状岩にぶつかる波の音だ。時間が経つにつれて波音が近づいてくる気がしたのは、きっと満ち潮だったからだ。

沈む太陽の光を追いかけるように西側に向かって幹を伸ばすビロウ樹。

 青島は、貝殻が堆積してできた小さな島だ。そこに偶然、ビロウ樹の種が根付き、気の遠くなるような長い時間を経て、今わたしたちの目の前に見事な森が存在する。

 そんな青島にインスピレーションを受けた2皿目は、地元産の巻貝とパパイヤ、ウニの組み合わせ。ニシガイの磯の香り、パパイヤの甘み、ウニの豊かな風味……どれかひとつが欠けたとしても完成することのない、完璧で奇跡的なコラボレーションだ。

左:ニシガイ、パパイヤ、ウニを合わせた料理。
右:郷土料理「だご汁」を川手シェフ流にアレンジ。

 川手シェフのスペシャリテのひとつが、経産牛を使った料理。経産牛とは出産を経験した牛のことで、食肉牛としてのランクは低く、加工用の肉として扱われることもある。食にかかわるシェフの視点で「生命の循環」を見つめたときに、経産牛をおいしくいただくことは必然であり、サスティナビリティ(持続可能性)への試みのひとつなのだ。

切り干し大根と一緒にいただく経産牛のカルパッチョ。

 今回の経産牛は、黒皮かぼちゃのコンソメと合わせていただくカルパッチョ。スープに使われた黒皮かぼちゃは宮崎固有の伝統野菜で、川手シェフが宮崎市内の農家を訪れてほれ込み、ぜひ今回のメニューに組み込みたいと即決したという。

 川手シェフの食に対する思いは、フードロスの問題にも触れる。いま日本では年間に1700万トンもの食品廃棄物が排出され、なかでも食べられるのにもかかわらず捨てられる食品は年間約500~800万トンにものぼるという。

 前出の「だご汁」は、山間部に暮らす人たちの保存食からうまれた郷土料理。切り干し大根は、生ものである野菜の長期保存を可能にする知恵だ。食べる物を無駄にしない先人の工夫を、いま再び思い返したいとのシェフの思いが表れる。

野外の特設キッチンで調理する川手シェフ。

 そして、ディナーのクライマックスに登場したのがイノシシ鍋。山間部では狩猟肉の頭を神様にそなえて感謝し、人々で山の恵みを分かち合う風習があるのだという。この日のディナーでは、40人のゲストがひとつの大鍋を取り分け、感謝の気持ちとともにいただいた。

イノシシ肉の旨みがとけこんだ味噌仕立てのスープにはシイタケなどの野菜がごろごろ。
無事に二夜を終えた川手寛康シェフと中村孝則氏。

 「DINING OUT MIYAZAKI with LEXUS」の二夜、約80人のゲストをむかえた調理とサービスは、地元に暮らすボランティアスタッフたちが活躍した。

 そのひとり、宮崎市内で洋食屋「らんぷ亭」を営む藤澤賢二さんは、東京の名門フレンチレストランで腕を磨いたあと地元に戻り、今回のイベントでは、宮崎食材の目利きとしても参加した。「宮崎食材の魅力をあらためて感じるイベントでした。そして、まだまだ知らないことがたくさんあるということも実感した」と言う。

 2日間のイベントが終わったあとの率直な感想は、と尋ねたら「イベントを通して宮崎の食にかかわる人たちとの交流も深まった。終わったのではなく、これからが始まり。そんな予感がするんです」と答えてくれた。宮崎のグルメシーンが新しい未来への第一歩を踏み出したようだ。宮崎を訪れる楽しみがまたひとつ、増えそうだ。

宮崎食材の魅力を再発見
「DINING OUT」第10弾開催!

2017.07.02(日)
文・撮影=CREA WEB編集室