最後に食べたいものから
あぶり出される死生観

今月のオススメ本
『おあとがよろしいようで』 オカヤイヅミ

友人から『ツイッターで、“何々が食べたい”としかつぶやかないよね』と言われるほど、食べ物のことを考えたりお料理したりが大好きで、〈人生は長い呑み会〉が座右の銘という著者。素直な疑問を作家にぶつけてみたら、その答えがすごかった! 奇遇にも、死ぬ前の晩餐に“お豆腐”を選んだふたりは誰? 「極道すきやき」ってどういうもの? 読んで損なしのユニークな考察。
オカヤイヅミ 文藝春秋 1,050円

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 人生の最後に食べたいものは何? 飲み会の席などでときどき話題に上り、盛り上がるそのテーマを、オカヤイヅミさんが15人の人気作家たちに聞いて回ったコミックエッセイ『おあとがよろしいようで』。死ぬのが怖いオカヤさんが、その恐怖感を薄めてくれる食べ物はないものかと考え始めたのが出発点だ。

「人生最後の晩餐となれば、お話をうかがった作家さんたちも、お肉などごちそうを選ぶことが多いかと思いきや、意外にもふだんから食べ慣れているものを挙げた方が多かったですね。食欲はいわば生命力と直結している欲望なので、実はその人の死生観にもつながっていくのが面白かった。また、みなさんだいたい、私ほど死ぬことが怖くないらしいとわかったのも発見でした(笑)」

 中には、芥川賞作家の村田沙耶香さんのように、食べたことのないもの(しかもそれがかなりワイルド)を食べて死にたいという人もいる。

「好奇心は生の燃料のようなものだから、それが死ぬギリギリまで尽きないのはすごいなと。そのほか、綿矢りささんや西加奈子さんなど、『死ぬまで書くと思う』という作家さんが多かったのにも圧倒されました」

 彼らのナマの声はもちろん、オカヤさんが描く似顔絵や、インタビューから垣間見える個性にも触れられる。オカヤさんというフィルターを通すことで、各作家像がぐっと立体的になるのも本書の楽しさだ。

「私は子どものころから童話や小説に出てくる食べ物……『ぐりとぐら』のカステラとかを食べてみたかったんですが、食べ物って、他者との共通認識が生まれやすいものだと思うんですよ。そのとき何を考えているかなど、気持ちは共有しづらいけれど、味覚はもっとシンプルに共感できますよね。ファンタジーやSFも、食べ物のシーンがあると親近感が湧くし、たとえそれがまずそうでも、食べてみたくなる(笑)」

 タイトルは、落語でオチを言った後の常套句から取った。

「もともとは、『次の準備が整ったのでそろそろ交代します』という意味だそうです。なぜかぱっと浮かんだんですね。連載のバトンタッチという意味も重ねられるし、死ぬ前の区切りのようにも聞こえるし、結構ハマっているなと思いました」

 読んでいるうちに、自分なら何を選ぶだろうと自問しているはず。

「考えてみたら面白いと思います。死は怖くなくならないけど、答えを探っていく中で、生はとても面白くなるので」

オカヤイヅミ
1978年東京都生まれ。漫画家&イラストレーター。著書に『いろちがい』『すきまめし』(マッグガーデン)、『ごはんの時間割』(加藤千恵との共著、講談社)など。

Column

BOOKS INTERVIEW 本の本音

純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!

2017.05.01(月)
文=三浦天紗子

CREA 2017年5月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

最近、眠れてる?

CREA 2017年5月号

最近、眠れてる?

定価780円