石川直樹はいかに
世界中の土地と関係を結んだか

23歳で世界七大陸最高峰登頂に成功するなど、世界中を巡って撮影を続けてきた写真家・石川直樹による大規模個展。初期から現在までの、ジャンルを横断しながらの活動を、未発表作を織り交ぜながら紹介。シリーズ「K2」(2015)より。

 「天気待ち」という言葉が、映画の撮影現場ではよく使われる。陽が射すのを待ったり、いい感じに雲が現れ出るのを待ったり。監督が想定する理想の気象状況の到来を、スタッフ一同、祈りながらひたすら待つ。

 風景写真の分野でも、天気待ちをする写真家は多い。山頂に神々しい光が降り注ぐ瞬間や、鏡のような湖面が風に揺られ無数のさざ波に覆われるときを、じっと待つ。自然がもたらす「決定的瞬間」を是が非でも捉えん! というわけだ。

シリーズ「CORONA」(2010)より。

 世界中を旅して回り、というかその行程は旅行という言葉では軽すぎるほどハードなものだけど、そこに広がっている光景を写真作品にして提示してくれる石川直樹もまた、広義には主に風景写真を撮る者である。

 ただし彼の写真には、天気待ちをしたような形跡はない。北極圏やエベレストの山頂付近など、あまり人が足を踏み入れられない地へ出かけて撮影された写真ばかりなのに、希少さやその土地ならではの特長、美しさを強調しようという意図は皆無。

「こんな凄い場所なんだよ」

 という自慢げなところが欠片もない。生死に関わる厳しい環境下だから天気待ちは難しいのかもしれないが、せっかくならもっと「決定的瞬間」ぽい写真も撮ればいいのにと、つい思ってしまう。

 いや、そうじゃない。石川の写真に改めて目を向ければ、やろうとしているのは違うことなのだと気づかされる。彼はフォトジェニックな光景にあまり興味がないし、いかにそこが秘境であるかを強調して、その土地のPRマンになろうという気などさらさらない。それよりも、眼前に広がる環境と自分自身が、どんな関係を取り結んだか。そこを何よりも重視している。

シリーズ「ARCHIPELAGO」(2009)より。

 見知らぬ土地へ行く。思いもかけぬものに出合う。言葉が生じる前の、驚嘆だけが支配するその瞬間を、石川は写真に収める。写ったものが美しいかどうかはよく分からない。言葉に落とし込めない、ナマのままのゴロリとした手応えだけは、写真を観る側にも痛いほど伝わってくる。

 世界中でそんな写真を撮ってきた石川の、美術館における初めての大規模個展が始まる。北極、南極、八千メートル級の高峰といった地球の極地を撮ったシリーズ、世界の洞窟壁画を訪れた「NEW DIMENSION」、日本列島の島々を探索する「ARCHIPELAGO」。石川の初期から現在までの活動の全貌をたどることができる。あまりのスケールの大きさに唖然とさせられるとともに、大仰にいえば、地球の見方が変わる体験ができるはずだ。

石川直樹『この星の光の地図を写す』
会場 水戸芸術館現代美術ギャラリー(茨城・水戸)
会期 2016年12月17日(土)~2017年2月26日(日)
料金 一般800円(税込)ほか 
電話番号 029-227-8111
http://www11.arttowermito.or.jp/

2016.12.12(月)
文=山内宏泰

CREA 2017年1月号
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この記事の掲載号

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